2002年作品集

 

天人五衰酔うて生きるも楽しいな

 

冒険ダン吉で少年に戻りたし

 

醒めた酔い耳の底には天城越え

 

柔らかな陽射しに坐る寺の縁

 

まどろめばトランペットは天空の音楽

 

シャガールが好きな淑女は奔放なのか

 

童顔のまま老いて行く日本人遥かな旅

 

サーカスの親方の横顔が冷たいぞルオー

 

一番星見つけた夕方の焚き火

 

山は雪だなシャンソンを聴きながら

 

重圧のあった時代のネクタイさ

 

魚焼いた夕餉こころに平和あり

 

老教師朧月夜を抱いたまま

 

もう過去に戻れぬ夢か獅子頭

 

一律に島を照らして島の灯台

 

シャガールのカップルが浮く春の天

 

老いの肌乳白色の湯が包み

 

夫婦鹿とことこ歩む薩摩の湯

 

方言が渦巻きボクは異邦人

 

ゆっくりと時が流れる硫黄泉

 

春のダイヤ改正は遊んでおいで

 

ポシェツトの小銭で駅の喫茶室

 

ディーゼルの旅はひとりの文庫本

 

旅帰りポケット瓶に飲み残し

 

酔い痴れて春が鍵穴から零れる

 

山鳩が鳴く遠ざかる人の背に

 

仏の花替えてるジャズが聴こえるな

 

同類と見たか蜥蜴が動いてる

 

生きてるか死んでいるのか周りは青葉

 

足の向くまま生き物の謳歌聴く

 

この先に何があるのか名簿消す

 

躍動感持病なんかはくそ食らえ

 

裸婦像のエネルギー良し汗ぬぐう

 

没世間雨の紫陽花も良いな

 

同い年イロハの音符うろ覚え

 

小食に慣れて生きますもう少し

 

赤シャツでピンポン六十既に越し

 

青葉、青葉、青葉、野猿が僕を見る

 

天気晴朗カラフル過ぎる保育園

 

梅雨明けに豆のてんぷらでビール

 

ガラス戸に朝日が射してくる至福

 

過去の罪鏤めながら赤ワイン

 

魔の踊る時間に肉も焼けてきて

 

無花果は熟し女は逞しく

 

暗闇の邪鬼の囁きを聴いた

 

風が冷たくなってこころが死にそうな

 

夏の汚れを洗えばこの先が寒い

 

ヒマラヤの凄い月夜よもう一度

 

 

 


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