2003年作品集
大根が煮えてる新しい朝だ
若い夫婦を祝福したいなあ猫よ
どの朝も朝日が照れば輝けリ
賑やかに神社の鈴が鳴る夕べ
棒グラフとはこの夢は悪夢
カトマンズほどではないが碧い空
自由人なりハイウェイーに身を任し
ウィスキー一口飲んでから多弁
待つことを知らぬ流れに身を任せ
ローレライ遠い記憶の底にふと
旅役者舞えば哀しいほど美男
走馬灯過去の痛みを鮮烈に
社務所の灯は暖かく雪しきり
高揚しているシャンソンと酔いと
気後れして見るルノアールの女
布団に這入る眠れない羊何匹
またひとり私を去って行くか冬
おばさんらと行く旅ありてはやり唄
山小屋の酒旨かったなあ痛む脚
世の流れ無職は酔うて眺めるか
生きていればとストーブが燃える
花一輪咲けばお酒を飲みましょか
ゆっくりはすなと時計が急きたてる
慈母観音おとこの傷は痛ましく
僕の平和な時間ピーナツを齧る
はや一年また桜咲く架線橋
戦線を離脱している老友よ
負の時間は欲しくない酒一合
ソーダ水風の記憶が蘇る
失笑の中で落し物探す
居酒屋のおでんの匂い嗅ぐ君と
素手で掴む岩の感触が初夏
ピンクの闇吾が守護霊よ何処
荒涼の野に捜すもの妻よ子よ
心象の地図飛んでゆく蝶二頭
堕天使の群れで酔漢となるか
豊饒の神あり大地を這うは蛇
緩やかな時間流れて蚊の行方
百二十グラムの肉で足る夕餉
猫抱いた庭雑草の花咲いて
鐘が鳴ってる鐘が哭いてる白い闇
みな悪夢奈落の底に憤怒佛
往生楽土その果てに破れ僧衣
自己嫌悪ガラスの破片散らばりぬ
樹も蝉も無明の闇も野の匂い
渡岸寺の観音恋しきと独座
邪険な雲に立ち向かう夏の塔
六十九歳の夏過ぎゆきぬ遠花火