戸を叩く友よ大根も煮えた
遠山の雪は仏の化身かも
笹舟の流れ着くのは過去の岸
オールドブラックジョーの世界に僕もまた
焼夷弾が降ってる空に明けの明星
祖父と逃げた機銃掃射の続く路
空襲の街は花火に似た火焔
焼け跡にもう雑草が花つけた
ストーブは燃えるまだまだ老いられぬ
賑やかな夫婦が来てる焼き鳥屋
目覚めると悪夢頭痛はまだ続き
止まり木に翼もがれたような老い
みんな美女お歳のことは問うまいぞ
闘鶏はすっくと君もまた戦士
孤立した姿で坐る堀炬燵
想い出すこと多くしてルミナリエ
宮古島
水平線丸く海人の声聞こえるよ
砂糖黍畑拡がるやすらぎの時ぞ今
旅人に楽園なれど米産まぬ島
毛皮は要らないとおばちゃんの笑顔
満ち足りた一日どこかで遠い鐘
彼もまた敵かも知れぬ大笑い
プーさんが小首傾げる貯金箱
夢ですよ夢あの人も居ない筈
幻蝶がひらひら昼をただ独座
逝き急ぐ人を惜しんで花吹雪
里山の土筆に問うたわが余命
ボトル抱きいま止まり木でひと嫌い
従順さ少し大人になり過ぎた
おばさんの変身願望赤い靴
七十の疲れ楽土となるベット
兎飼う君もいまでは小市民
薔薇一輪苦いコーヒー好きですか
悪夢覚め布団で思う黄泉の国
スナックで隣りが騒ぎ旅気分
膝痛の夜はヒマラヤを幻視する
空襲の朝に金星輝けリ
教室に死屍無造作に積み重ね
応戦の機銃敵機に届かない
くちなわの野に錫杖の背な寒く
憤然と虚飾の塔を逃れ去る
行き行きて緑に染まる破れ衣
彷徨の野よ新月もまた独り
老友と黙って歩み痛む脚
走馬燈アランドロンは勇ましく
秋の蚊よおまえも共に生きようぞ
真夜中に金魚眺めて咳しきり