作品集 2005年

 

戸を叩く友よ大根も煮えた

遠山の雪は仏の化身かも

笹舟の流れ着くのは過去の岸

オールドブラックジョーの世界に僕もまた

 

 

焼夷弾が降ってる空に明けの明星

祖父と逃げた機銃掃射の続く路

空襲の街は花火に似た火焔

焼け跡にもう雑草が花つけた

 

 

ストーブは燃えるまだまだ老いられぬ

賑やかな夫婦が来てる焼き鳥屋

目覚めると悪夢頭痛はまだ続き

止まり木に翼もがれたような老い

 

 

みんな美女お歳のことは問うまいぞ

闘鶏はすっくと君もまた戦士

孤立した姿で坐る堀炬燵

想い出すこと多くしてルミナリエ

 

 

宮古島

 

水平線丸く海人の声聞こえるよ

砂糖黍畑拡がるやすらぎの時ぞ今 

旅人に楽園なれど米産まぬ島

毛皮は要らないとおばちゃんの笑顔

 

 

満ち足りた一日どこかで遠い鐘

彼もまた敵かも知れぬ大笑い

プーさんが小首傾げる貯金箱

夢ですよ夢あの人も居ない筈

 

 

幻蝶がひらひら昼をただ独座

逝き急ぐ人を惜しんで花吹雪

里山の土筆に問うたわが余命

ボトル抱きいま止まり木でひと嫌い

 

 

従順さ少し大人になり過ぎた

おばさんの変身願望赤い靴

七十の疲れ楽土となるベット

兎飼う君もいまでは小市民

 

 

薔薇一輪苦いコーヒー好きですか

悪夢覚め布団で思う黄泉の国

スナックで隣りが騒ぎ旅気分

膝痛の夜はヒマラヤを幻視する

空襲の朝に金星輝けリ

教室に死屍無造作に積み重ね

応戦の機銃敵機に届かない

くちなわの野に錫杖の背な寒く

憤然と虚飾の塔を逃れ去る

行き行きて緑に染まる破れ衣

彷徨の野よ新月もまた独り

老友と黙って歩み痛む脚

走馬燈アランドロンは勇ましく

秋の蚊よおまえも共に生きようぞ

真夜中に金魚眺めて咳しきり

 

 

 


 

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