2007年 作品集

 

閑居しています夕食は焼き魚

金木犀匂い農作業が続く

飲んでるな焼酎ですか芋ですか

友と会う略図に描いた赤鳥居

里芋は煮えたか熱燗にしろよ

恋多き魚座というが今は古希

黄葉の園文庫本ポケットに

廃駅に座り虚しさを溜める

大いなる空なり今日も凧揚がる

ローマ字が溢れる街をひとり旅

花一輪浮かべた川のその行方

自画像は老いたる河馬として描くか

珈琲の香りを嗅げばすでに春

暮れなずむ空に流離の想いあり

ここに暮らし山を眺めている焦り

シェーンカムバックあの頃はよかったな

皆去ってゆく足跡を聞く独座

哀しさは丘にはためく日の丸を

よろよろと老い彷徨うて暮れる街

子供らの歓声あれは保育園

旅人へ街は他人の顔をする

ぼんやりと古い洋画を見る深夜

正確に始発出てゆく軌道音

楊柳観音でしょうか遙か向こう岸

幾星霜お転婆だった娘の記憶

肩抱いて膝の痛みを持つ仲間

OB会背広姿は彼らしい

飲み会で花に浮かれた軽い嘘

?の樹霊が蠢いている青葉闇

蝶がひらひら神は間近に居るぞ昼

冥府が見える新月の野に独り

独座して昔の友はイリュージョン

遊仙の如ふらふらと酒啖う

黙然と老爺の野に立つ理想像

ひたすらに海が恋しい夏のビル

草茫々いま酔眼に浮かぶ亡友(とも)

連呼する声を肴に飲むビール

血統の鎖などないわが野生

声高に平和を説くが見よイラク

アルバムに死者も生者も笑いあう

キッチンで秋刀魚食いはや立秋か

取り留めのない話が弾むワンカップ

元気でと言い合い去ってゆく老友よ

春の桜思い浮かべてブランデー

聴こえますか去ってゆく足音を

昼の電車に声高なおばさんら

バーテンも無口気だるい飲み仲間

 


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