2008年  作品集

 

フェリー巡航今年良いことありそうな

ピノキオを飾る馴染みの喫茶店

故郷に落ち着けそうな鐘の音

酔眼で鍋の煮だった音を聴き

単純に生きる無冠の燗徳利

天女には無縁の老いと成り果てる

春よ来い蟻の行列眺めつつ

裏切りの夜を許したほの明かり

キャベツ畑が占領す夢幻の里

異次元の森に溶けている白馬

眉剃った尼僧が似合う桂川

パソコンのマウス逆らう締切日

四国百山制した足がまた疼き

もてなしの膳へ私の胃が辞退

多眠少食鯛の刺身も欲しいけど

なぜ亡友の笑顔か風の吹く夜に

登山書をめくると雪はさらさらと

思い残し切符に何を書くのだろ

回想の甘い痛みに眼を閉じる

遠くの旧友よジュピターを聴いてるか

雪溶けて君の島にも春が来る

過去に目を向けると挫折など幾多

ほろ酔いへ飛天翔んでる春の天

今年見たしだれ桜に友は亡し

割烹着男はさまにならぬまま

男なるか妖艶な花の下

安眠をすれば極楽の門開く

青葉に囲まれ仏像はにこやかに

おいでおいでと手招きしてる薬師佛

寝転べば蒼天は回転する如く

北国の友は元気か切手貼る

満月の夜は矢傷を確かめる

地図上を電車が走り行く空疎

止まり木の向こうで天女微笑する

亡き人のいのちを消すか住所録

石窟岩 仏の傍で栗鼠遊ぶ

郷愁の思いは安東河回村

カップルへ水原華城ライト照る

支石墓に佇てば俄かにシャワー雨

悔恨は遠い記憶の草いきれ

オールドブラックジョー満月に想う旧友

丸薬が床に転がる手の震え

酔眼に庭の胡瓜はすくすくと

下弦の月二合の美酒に降りてくる

漬物とめしでシンプルに生きる

幼児らが騒げば老いにある落差

花開き花散り痛む脚擦る

 

 


目次へ