2009年 作品集

 

青年の覇気を持ちたし光る海

山鳩が啼いて心地よい夜明け

安逸に堕した男が眼鏡拭く

遠山に陽が輝いて老いを鼓舞

旅楽し地元の主婦の国訛り

ほろ酔いの眼下に光る他所の街

旅人へ池畔のすすき風に舞い

少眠少食流れるままに旅の老い

酔眼に対すつっけんどんな美女

仙界はここかそろりと参る酒

女神の杖が一閃をして流れ星

不具合な四肢を確かめてる酒席

秒針の音は深夜の天魔かも

華やかに冬の天使がノックする

登山書を棄てられぬまま仰ぐ雪

ひとり倒れふたり倒れる老いの武者

談笑の中で思うは花浄土

こんなではなかった脚に春遠し

死者生者すべてを流す無常とは

猪も猿も出てくる里が好き

美術展老いに静かな時流れ

昼のめしあの釣り船はどこへ行く

不眠の夜はヒマラヤの月想う

下界まで雲掻き分ける猿田彦

タジカラオ両手で光取り戻し

出雲でのヤマトタケルはニューハーフ

スサノオはやはり暴走族の神

初夏の酔い小学唱歌口ずさむ

火の如く生きる気力は既になし

人はみな愛しと門を開け放ち

食べて寝るだけの暮らしのけもの偏

山を眺める透明なときは今

寺の鐘遠くで聞くと憶う悔い

戦いのとき既に去り四肢洗う

陶然と酔えば戸外で動く影

砂時計明日は良いことがあるか

海よ海回顧を浸す足の裏

旧友と過去に溺れて飲むワイン

焦燥の蝉は脱皮をせず老いる

突き刺さる視線を持った若き獅子

お幸せにとは心ない麗句

解放感着衣を脱いで酔うたまま

横顔は無心花火を見るおんな

蜘蛛翔んで秋空に陽は燦燦

山岳写真見てると脚が情けなく

蝉の抜け殻よ名残の夏散乱

 


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