青年の覇気を持ちたし光る海
山鳩が啼いて心地よい夜明け
安逸に堕した男が眼鏡拭く
遠山に陽が輝いて老いを鼓舞
旅楽し地元の主婦の国訛り
ほろ酔いの眼下に光る他所の街
旅人へ池畔のすすき風に舞い
少眠少食流れるままに旅の老い
酔眼に対すつっけんどんな美女
仙界はここかそろりと参る酒
女神の杖が一閃をして流れ星
不具合な四肢を確かめてる酒席
秒針の音は深夜の天魔かも
華やかに冬の天使がノックする
登山書を棄てられぬまま仰ぐ雪
ひとり倒れふたり倒れる老いの武者
談笑の中で思うは花浄土
こんなではなかった脚に春遠し
死者生者すべてを流す無常とは
猪も猿も出てくる里が好き
美術展老いに静かな時流れ
昼のめしあの釣り船はどこへ行く
不眠の夜はヒマラヤの月想う
下界まで雲掻き分ける猿田彦
タジカラオ両手で光取り戻し
出雲でのヤマトタケルはニューハーフ
スサノオはやはり暴走族の神
初夏の酔い小学唱歌口ずさむ
火の如く生きる気力は既になし
人はみな愛しと門を開け放ち
食べて寝るだけの暮らしのけもの偏
山を眺める透明なときは今
寺の鐘遠くで聞くと憶う悔い
戦いのとき既に去り四肢洗う
陶然と酔えば戸外で動く影
砂時計明日は良いことがあるか
海よ海回顧を浸す足の裏
旧友と過去に溺れて飲むワイン
焦燥の蝉は脱皮をせず老いる
突き刺さる視線を持った若き獅子
お幸せにとは心ない麗句
解放感着衣を脱いで酔うたまま
横顔は無心花火を見るおんな
蜘蛛翔んで秋空に陽は燦燦
山岳写真見てると脚が情けなく
蝉の抜け殻よ名残の夏散乱