2010年       作品集

 

数の子と酒正月を噛みしめる

 

私は何処へここは知らない夢の町

 

雷鳴に亡くした友の声がふと

 

可塑の田にぽつんとひとり立つ案山子

 

想い出の穂高は雪か足擦る

 

先輩が逝き同輩も逝き苦い酒

 

パソコンが反逆老いを侮るか

 

野の花の勲章でよい陽が照れば

 

暁の空に斑鳩の飛天

 

痛い痛いと言い合う老いの置き炬燵

 

人間に関心のない檻の猿

 

少食に甘んじ坂をひとつ越え

 

脳の中忘れ神やら隠し神

 

冷蔵庫ちょっと失敬ロースハム

 

 

 

友人の訃報が春の来る前に

 

枯れた花だけそのままに春の墓地

 

天女か魔女かご機嫌はいかが

 

争わぬ豚の平和を謳歌する

 

突然に敵へ豹変された悔い

 

爪研がぬ猫は言い訳して不貞寝

 

おばさんら旅の電車で盛り上がる

 

 

 

諦めてからはビデオで見る登山

 

アイゼンを取り出す弥生の積もる雪

 

春の回覧板は公園で花見する

 

架橋下を春の電車が通過する

 

寒波襲来厚着の上を花吹雪

 

夢うつつボレロの曲を聴くベット

 

野の道をザック背負うて朧月

 

 

 

草を焼く匂い天には光り満つ

 

眠りから覚めれば山積みの雑事

 

見習い天使降臨病室華やかに

 

月の満ち欠け今生をさて如何に

 

まどろめば湖北の仏笑み給う

 

コーヒーをがぶ飲みしてる男なり

 

山の向こうに山ありその山が恋し

 

 

 

喧騒は憂し独り居の昼下がり

 

不沈戦艦のように居座り摘む菓子

 

領海侵犯するのかと猫構えてる

 

ハム、ビール亭主としての威厳あり

 

介護ホームのチラシを哀しみで破る

 

戦時下へ逆流させる麦のめし

 

昔の家にちゃぶ台もある父母も

 

 

 

サイレンの音空襲でない安堵

 

にんげんがにんげん殺す今もなお

 

旅僧はひとり月照る野の道を

 

幾層も重なる山に仏陀在り

 

石積んで積んで果敢なさ噛み締める

 

雑踏のなかの孤独は老いの身に

 

 

 


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