数の子と酒正月を噛みしめる
私は何処へここは知らない夢の町
雷鳴に亡くした友の声がふと
可塑の田にぽつんとひとり立つ案山子
想い出の穂高は雪か足擦る
先輩が逝き同輩も逝き苦い酒
パソコンが反逆老いを侮るか
野の花の勲章でよい陽が照れば
暁の空に斑鳩の飛天
痛い痛いと言い合う老いの置き炬燵
人間に関心のない檻の猿
少食に甘んじ坂をひとつ越え
脳の中忘れ神やら隠し神
冷蔵庫ちょっと失敬ロースハム
友人の訃報が春の来る前に
枯れた花だけそのままに春の墓地
天女か魔女かご機嫌はいかが
争わぬ豚の平和を謳歌する
突然に敵へ豹変された悔い
爪研がぬ猫は言い訳して不貞寝
おばさんら旅の電車で盛り上がる
諦めてからはビデオで見る登山
アイゼンを取り出す弥生の積もる雪
春の回覧板は公園で花見する
架橋下を春の電車が通過する
寒波襲来厚着の上を花吹雪
夢うつつボレロの曲を聴くベット
野の道をザック背負うて朧月
草を焼く匂い天には光り満つ
眠りから覚めれば山積みの雑事
見習い天使降臨病室華やかに
月の満ち欠け今生をさて如何に
まどろめば湖北の仏笑み給う
コーヒーをがぶ飲みしてる男なり
山の向こうに山ありその山が恋し
喧騒は憂し独り居の昼下がり
不沈戦艦のように居座り摘む菓子
領海侵犯するのかと猫構えてる
ハム、ビール亭主としての威厳あり
介護ホームのチラシを哀しみで破る
戦時下へ逆流させる麦のめし
昔の家にちゃぶ台もある父母も
サイレンの音空襲でない安堵
にんげんがにんげん殺す今もなお
旅僧はひとり月照る野の道を
幾層も重なる山に仏陀在り
石積んで積んで果敢なさ噛み締める
雑踏のなかの孤独は老いの身に