2011年作品集

元旦の朝阿弥陀佛一列に

声高な仲間へ温い風が吹き

晴れた朝疎遠の友をふと想い

早朝の庭を歩けば蜘蛛の糸

如月の朝には訃報ばかり来る

独居してどぶろく飲むは春の贅

手を繋ぎ損ねる時の四面楚歌

堂暗く薬師如来もまた孤独

膝痛を神与えしか山は過去

風小僧空虚な嘘を通り過ぎ

老木に若葉を見るは生きる糧

野火の向こうに希望はあるか風渡る

薬師寺の鐘を聴きつつ塔仰ぐ

小雪舞う若草山に鹿群れる

法隆寺九面観音愛らしく

奈良町の蕎麦屋で憩う気まま旅

酔眼を微風が撫でる花の下

亡友からの便りと聞いた遠い声

飼われてる不満が咬みつき猿となる

民宿に遠い昭和のはやり歌

夕映えを仰ぐと充足感少し

この街の菓子舗も今は春色に

宿泊の職業欄は斜線引く

未来図をクリックすれば白紙だけ

みどり野の果てに在すか風の神

検索エンジンで幸せは出てくるか

早起きの無職は風に微笑まれ

海も山も時に機嫌の悪い神

初夏の庭サクランボの実へ小鳥来る

カレンダー一枚破るだけの無為

雑音が多い世相へ背を向ける

はらそぎゃあてぃされど荒野に果ては無し

海神の怒り論理の壁崩れ

登山道ひっそり祀る山の神

てふてふの行方を追えば梅雨の空

消灯の闇に幼い日が浮かぶ

向き変えて見れば魔法の笛が見え

無定見河の流れに沿うメダカ

白昼夢は幻蝶のひらひらと

風止んで無縁社会にも酷暑

独り寝のベッドへ吠えるひき蛙

振り向けば亡友は笑顔を見せて去り

立秋の浜は見知らぬ人ばかり

 

敦賀・小浜紀行

凛として気比神宮の大鳥居

洞穴に八百比丘尼入り給い

奈良へ水送る泉は神宮寺

眼病の効能を聴く多田薬師

 


目次へ