八十が来てパソコンの腕試し
少食少眠何を煩う明日のこと
夢に見る何故か在職中の瑣事
異次元に向かう鳥居を潜りたし
再びの春巣籠りの衣脱ぐ
薬剤を浴びるほど飲む二月寒
橋上の椅子落陽を受け止める
二輪草徳本峠で見た幻夢
ワイン万歳僕も酔うから君も酔え
若き日の夢よ天には光る星
雨しとど透明になる君の顔
独り寝の夜には春の霧笛鳴る
老年の夢は山野を駆けること
錠剤を薬師如来は黙視する
足弱の男が潜る狸穴
南無八幡四肢を仔鬼が駆けまわる
三千光年の光りを浴びる美女の頬
猪も猿も棲む里朽ちる墓
てのひらの薬を知るか薬師佛
奥山の祠ほこらに埋まる魔境など
三陸鉄道に乗った写真の人は何処
春の珍事指のスプーンを取り落し
アルバムにもはや取り戻せぬ若さ
万歳のかたちで寝てる旅帰り
あなたには天国の門見えますか
白い歯を見せてカモメのよう帰る
その風は魔女かおとこの背を撫でる
若葉、青葉の匂いで少年に戻る
スイングスイング若いあなたに何時逢える
小走りの少女に華やかな未来
みな外に出払っている夏の書架
ひそやかに森を歩けば逢える過去
四万十に海のスズキが上がるとか
そよ風に悠々観光帆掛け舟
手長海老良し四万十で生ビール
青葉若葉の足摺は霧の中
非日常の世界にクラゲたち乱舞
サイレンの音に脅える遠い記憶
蝶の舞う菜園トマトの赤と黄と
ポケットの小瓶は旅立ちの駅で
快晴の道大股で行く少女
ソーダ水夏の別れの道の駅
駆けあがる力妄想となる傘寿
断りもなく伸びたがる足の爪
左右見て負け犬が手を挙げる
良い勝負言うお追従聞き飽きて
杖突いて近所の山を仰ぎ見る
まだ元気とは割り箸を持つ力