2015年作品集

 

指拡げ光りを受ける老いた四肢

ニシン鮭鱒北の大地に行くも夢

現在を誇り高くとこの一歩

冬晴に車窓から見る海の蒼

 

四面楚歌君も他人の顔になる

イノシシは島から泳ぎ街に出る

交通ルール無視の狸はまた轢死

穴掘って囲いの兎脱走す

 

冗舌を笑顔で聞いている狸

異常ない四肢に感じる不安感

コーヒー一杯で文学論ですか

老猫と眠りの海に沈みこみ

 

春は曙布団は僕を離さない

直線道路の果ては海に届くのか

空襲警報などは知らない茶の間

ひたすらに山が恋しい春風吹けば

 

膝痛は耐えねばならぬ神の刑

終電の響き聴こえる花月夜

起上る時は今ぞという怠惰

青葉濃き島にひっそり道祖神

 

幾星霜経た野仏に老いがあり

お笑いのテレビを無表情で見る

薔薇の絵がお疲れさまと云う

運命は流れて来るか寝て傘寿

 

何気なくすたすた歩き巫女の舞

北国の人と別れる花の駅

金柑が熟した下で老婦人

雑踏の孤独を老いは噛みしめる

 

寝室に飛天が踊る白昼夢

邪気払う鈴打ち鳴らす巫女の舞

そよ風の庭で素麺啜る昼

遠山の残雪光るひとり旅

 

陽の陰る荒野でひとり胸を張る

短針が動く誰もがいない秋

正面の坂に吐息を漏らす脚

種を蒔くひとを睡りのなかで見る

 

秋天を箒に乗った魔女の群れ

キタキツネ寝そべる噴火口の縁

ヒマラヤの夜空に金平糖のような星

幻の乙女に出逢う薄明り

 

そよ風にとぼけ顔して秋が来る

本当に上等ですかプレミアム

少眠の朝はトマトの赤が枯れ

孤立してラジオで過ごす暗い部屋

 

天帝はいずこ寒月が照らす屋根

ゴミ箱の中に入れたか隠し神

羽衣を着て闊歩する淑女たち

懐かしいのは旧友の笑いじわ

 

 


目次へ