指拡げ光りを受ける老いた四肢
ニシン鮭鱒北の大地に行くも夢
現在を誇り高くとこの一歩
冬晴に車窓から見る海の蒼
四面楚歌君も他人の顔になる
イノシシは島から泳ぎ街に出る
交通ルール無視の狸はまた轢死
穴掘って囲いの兎脱走す
冗舌を笑顔で聞いている狸
異常ない四肢に感じる不安感
コーヒー一杯で文学論ですか
老猫と眠りの海に沈みこみ
春は曙布団は僕を離さない
直線道路の果ては海に届くのか
空襲警報などは知らない茶の間
ひたすらに山が恋しい春風吹けば
膝痛は耐えねばならぬ神の刑
終電の響き聴こえる花月夜
起上る時は今ぞという怠惰
青葉濃き島にひっそり道祖神
幾星霜経た野仏に老いがあり
お笑いのテレビを無表情で見る
薔薇の絵がお疲れさまと云う
運命は流れて来るか寝て傘寿
何気なくすたすた歩き巫女の舞
北国の人と別れる花の駅
金柑が熟した下で老婦人
雑踏の孤独を老いは噛みしめる
寝室に飛天が踊る白昼夢
邪気払う鈴打ち鳴らす巫女の舞
そよ風の庭で素麺啜る昼
遠山の残雪光るひとり旅
陽の陰る荒野でひとり胸を張る
短針が動く誰もがいない秋
正面の坂に吐息を漏らす脚
種を蒔くひとを睡りのなかで見る
秋天を箒に乗った魔女の群れ
キタキツネ寝そべる噴火口の縁
ヒマラヤの夜空に金平糖のような星
幻の乙女に出逢う薄明り
そよ風にとぼけ顔して秋が来る
本当に上等ですかプレミアム
少眠の朝はトマトの赤が枯れ
孤立してラジオで過ごす暗い部屋
天帝はいずこ寒月が照らす屋根
ゴミ箱の中に入れたか隠し神
羽衣を着て闊歩する淑女たち
懐かしいのは旧友の笑いじわ