2016年 作品集

 

   寅さんお笑顔が浮かぶ朝ぼらけ

  ゴミ箱の中に入れたか隠し神

  羽衣を着て闊歩する淑女たち

  懐かしいのは旧友の笑いじわ

  堕天使に親近感がある絵画

  晩秋のトイレの窓にヤモリ来る

  今日無事な一日だった柿を?く

  もう既に登れぬ嶺が笑顔する

  天空に天使居場所のない科学

  やがて良いことがある脚擦る

  笑い振り撒いて陽気な男去る

  猪も必死追い駆ける路線バス

  緋を纏う女人が浮かぶ花の雨

  梯子段登れぬ老いを嫌うのか

  駆け足の少女笑顔で振り返る

  ダンサーの背なに光陰矢のごとし

  独居して敵も味方も居ない老い

  野武士かと思う庭から睨む猫

  虚しいと思うテレビの高笑い

  南無観世音癒して欲しい痛む脚

  銀河鉄道宇宙の果ては楽園か

  闇からの声が聴こえる釣瓶井戸

  焼き捨てる手紙だ過去は振り向かぬ

  想い出は流れゆくもの彼岸まで

  緩やかな傾斜で沈む老いの果て

  天変地異脚悪ければ如何にせむ

  洗濯物くるくる舞えば今日良き日

  フルートが聴こえる花野微睡に

  蛍火に微かに浮かぶ旧友の貌

  画布に描くのは故里の鬼瓦

  岩肌の冷たさ想うとき傘寿

  留守居して鉄道唱歌くちずさむ

  金魚ゆらゆらソフトクリームなど如何

  何時の間に微睡んだろうか文庫本

  居座って老猫探す薄明り

  慶賀とはまだ大病の無い傘寿

  雪積みは何センチかと聞く讃岐

  洗濯も乾き夕焼け久し振り

  友はみな去り浦島になった

  底力あるぞと唸るひき蛙

  真夜中のトイレの窓で狩るヤモリ

  何処の猫仔猫三匹連れ闊歩

  蚊も疲れ壁に貼り付くこの猛暑

  遅い足無理やり乗せる車椅子

  音の無い世界が好きな読書癖

  もう寝たかテレビの音がまだ聴こえ

 

 


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