巻頭言7    60回目の原爆忌  句集 「きのこ雲」から

 

 先日,広島で原爆川柳句集「きのこ雲」を頂いた。

 ご承知の通り昭和20年8月6日午前8時15分、原爆が広島に投下され今年で60年目を迎える。この原爆に遭われた広島の川柳作家たちが自分の持つ川柳という表現手段で自分の経験を作句し,これらの句を集め昭和31年の8月6日、丁度11年後に句集「きのこ雲」を刊行された。この句集ができてから半世紀,作家の殆どの人は亡くなっていると思うが句に残された思いは現在の我々が受け止め後世に引き継がなければならない。

 この句集の代表の森脇幽香里さんが「きのこ雲」を送る言葉」を後書きに書かれているので抜書きながら紹介する。

 「原爆を経験した私たちも今日までは,訊かれれば語り,その恐ろしさを訴えて、消極的ながらも原爆禁止の運動に務めてきたのでありますが,周囲のなにかに遠慮した冷淡さに,ともすれば遠慮勝ちであり、その訴えも非常に弱いものでありました。しかも考えてみればそれは原爆の恐ろしさを本当に知らない多くの人たちの為に大変無責任な,不人情なことだと思うのであります。,私たちにそれぞれできる方法で一人でも多くの人に訴え,解ってもらわなければなりません。

 原爆の心身に及ぼす恐ろしさを、身を以って体験し,いまなおその生命を急襲される恐怖と日夜たたかっている私達が伝えなくて,誰が本当のことを伝え得ましょう。阻止する機会は今の一度しかありません。その一度を失ったら,私達は滅ぶ地球と運命を共にしなければなりますまい。こんな恐怖感を笑うひとがあるかも知れませんがたとえ笑う人があってもお互い人間である限り,一緒に救われなければなりません。原爆を使用すれば,もはや戦争に勝負はありません。」                           

  では最後にいくつかの作品を紹介したい。

川へ来て苦悶の死屍の浮き沈み  郷田茂生

死屍と見た男が水を呉れという  柴田午朗

少女らの羞恥も消えて死期迫る  竹永あきら

先生の死屍は大きく手を広げ  馬場木公

 

 


 

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