現代川柳講座(三)

 

 

川柳の笑い(一)

一般に、川柳の作句方法を三要素という言い方で指導されてきました。現

在ではこれにあてはまらなくなりましたが、入門ということでまずこの三要素

から説明していきたいと思います。川柳の三要素というと、「笑い」「うがち」

「軽み」ということで、先輩から教わってきた例句は次の通りです。

 まず笑いということで

  嫁の灸もういくつだえいくつだえ

  向かい風嫁合わせても合わせても

  口から何ぞ出るように嫁笑い

  張りものがへんぽんとして嫁困り

  馬の尻たのんで嫁は通りぬけ

などがあげられます。

 うがちということでは、言い得て妙とか、的を射てているということですから

例句としては、

  よい女どこぞか女房きずをつけ

  惚れているだけが女房の弱みなり

  腹の立つ門を開けるも女房なり

  里のない女房を井戸で怖がらせ

  女房を怖がる奴は金ができ

などです。

 最後に軽みというのは軽快、洒脱ということで、平凡に詠んでいるが、滋

味溢れるものということで仲々難しいことです。

  床の軸親和とやらが書きんした

  どの嘘が真の夫婦になろうやら

などが例句であげられます。

 森西鳥さんの「笑いからみた川柳の本質」には笑いを分析して書かれてい

ますが、これを説明すると、笑いにはまず大別して排斥の笑いと挨拶の笑

いの二つをあげています。

 排斥の笑いは次のとおりです。

(1)表面上の洒落、ことばの洒落

これは地口、かけことばがあります。

 地口とは駄洒落で

  おれはおれはとばかり婿の花の山

という俳句をもじったもので、花見の二次会にくりこむ仲間から逃れようとす

る入り婿を笑ったものです。

 またかけことばでは例句として

  質屋からみもすそ川の流れ雛

という句で質屋−流れるをかけています。

  よく結えば悪く云われる後家の髪

も、結う−云うをかけています。

(2)内容上の洒落

 これには自慢ということで

  五番目は同じ作でも江戸生まれ

六阿弥陀という阿弥陀如来の仏像のなかで常楽院のは江戸の区域内にあ

るので、江戸っ子を威張った句です。

  早乙女をすすいでは出す軽井沢

は田舎娘を飯盛り女に出す軽井沢の宿を軽蔑した句。

  お釈迦さま生れおちると茶かけにし

は権威の引き下しでお釈迦さまという尊いものを甘茶をかけるという行事に

ひっかけてやゆしたものです。

 次に変装ということで、

  釣れますかなどど文王そばへ寄り

という句は周の文王が太公望が渭水のほとりで釣りをしている処へ近づき、

これを軍師として迎え入れたことを詠んだもので、文王も太公望に近づくに

はまず釣れますかといって近づいて行ったのだろうと推測した句で、ふっと

笑いを誘います。

  義朝は抜身をさげて討死し

は一見もっともらしいのですが、内容は卑俗で、義朝の最後は平治の乱で

敗れて東国へ落ちゆく途中、尾張の長田ノ荘司に湯殿のなかで謀殺される

のですが、抜身というのはおわかりと思います。これを仮装と呼んでおりま

す。

  花嫁の供はあひると薬かくがし

は人間をものにたとえる可笑しみで、あひるとは下女−お尻をふりふりとい

うことで−薬かくとは番頭−あたまの禿げた−をいったものです。

 


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