川柳のつくり方(一)
今回からは川柳の実技へとすすみます。川柳は俳句と同じように五・七・
五音の句形をもっていますので、できるだけこれにあてはめるようにします。
例えば「水」という題がでた場合、水の知識をまず思い浮かべるもので、先
日の講習会でも
水のなかでも人の飲む水は0.01%
体重の七割が水でできているとは情けない
という句が提出されました。これでは川柳とは言えませんので、まず五・七・
五にあてはめるようにします。そこで次のように添削いたしました。
人間の飲まれずに海にそそぐ水
情けないことに人間水で出来
川柳でとらえるのはものの見方ですから、人の飲む水は降雨量の0.01%
とか、人間の体重の七割が水とかいう知識は下敷きにつかって、句の上に
は見せない方がよいのです。
また、先日ある人から川柳と標語とどこが違うのかという質問がありました。
たしかに標語も五・七・五のかたちをとっています。例えば交通標語で
とび出すな車の前にまた車
せまい日本そんなに急いでどこへ行く
などが眼につきます。しかし、標語はあくまでも目的を周知するためにつくら
れるもので、交通標語であれば交通安全という目的のためであって、作った
人の気持ちとは関係がありません。川柳は作者の気持ちが句にあらわれて
いるものであって、かたちが同じといってもこの点で根本的に違います。
パトカーにはねられどこへ言うてゆく
にっこりと違反キップをきってくれ
などとつくれば、同じ交通関係の句としても標語にはならないでしょう。
俳句と川柳はどこが違うのかという質問も多くあります。前にも説明したと
おり、俳諧の発句と平句という出発点からして、現在でもできあがった作品
は非常によく似ています。一般的な区別でいえば、俳句は自然か自然とか
かわり合うものを詠むのであり、そのために季語というものを持っています。
また俳句は切れ字という約束事もあります。川柳は人間界の出来事を詠む
のであって、自然とは係わり合いません。隣り合っているジャンルだけに混
ざり合うような句が多いのも事実です。
川柳をつくる場合に、まず大別すれば、題を与えられてつくる題詠と、題が
なくてつくる雑詠にわかれます。
題詠は一般的にいって句会で出される題によってつくります。この題はあ
らかじめ、句会に参加する人々に発表されている兼題とその場で発表され
る席題にわかれます。句会は何人かの小句会から何百人が寄る大会まで
ありますから、ひとくちに題の数は言えませんが、一般的には兼題が五〜
八、席題が二という場合が多いようです。大体、一題について二句をつくる
−二句吐−ように定められますので、大会にもなると三百人×二句=六百
句に対し入選句は四十〜五十句で、八%ぐらいの競争率になりますので、
なかなか入選ができないものです。入選句は序列があって、前抜き(平抜
き) 五客(佳作) 三才(天・地・人) と後から発表するほど優秀句になり
ます。題詠の場合は、題に対して発表句が不即不離であること、つまり付
きすぎず、離れすぎずというのが原則です。これは前句附からの影響であ
り、例えば
危いことかな危いことかな
四十になり金が出来、ひまが出来
というように詠むということです。
では最近の香川県下の川柳大会で天位に入選した句と題をあげてみま
しょう。
「渚」前川 千津子選
アルバムを閉じても渚の音がする 郁代
「訴える」 三木時雨郎選
訴えた女優しい眼に戻る 千津子
「尼」 田中好啓選
哭きやまぬ尼僧の中のつむじ風 和代
「失う」 白井水仙選
メーデーの花火離職の床で聞く 富久男