(女)死魚を拾う島の女に主義はない
逢うて別れて女は待避線が好き
塗り薬女は母はに戻らねば
(穴)土蔵の穴に昔の歌は聴えない
(紙)型紙の背丈も父の血が続く
(恋)その恋の重さに紙に滲んでる
(毛)裏切りに馴れてけものの毛を纏う
(唇)妻の唇何処に魔性が有るものか
(雨)午後の雨けものは傷を舐めるべし
(指)中指に金冠出世主義者だな
(雑詠)中年に女の軽口など要らず
(スタート)母さんはいつもスタートに遅れ
スタートは豆腐半丁購うてきて
(男)男性歌手の汗に痺れる少女たち
(午後)主婦たちの午後帯ドラが刺激する
(珈琲)インスタント珈琲確定申告をしてる
(雑詠)妻も初老となる夜の呼吸音
(元気)クレオンの元気が画用紙を溢れ
(燃える)少年は松田聖子に燃えて暇
(住む)住みついて山のかたちに馴れて来る
洗濯機うなる休みの男子寮
(種)争いの種は知ってる黙ってる
ちり紙に包んだ種は何だろう
(遠い)菜の花の里には遠くレジを打つ
(残る)残り物ですよ近所にある情け
(井戸)悪口を一杯溜めた深い井戸
女にはもう井戸はない都市文化
(ねぎらう)おんな旅地酒の味にねぎらわれ
(ガス)都市ガスが女を故郷から放す
(芸術)カラオケが好きで芸術から遠し
(距離)歳の距離高峰三枝子に近いはず
男から詰める距離だとマダム云う
(干す)独身のふれ込みで干す男物
松田聖子のハミングで干す春の庭
(色)しあわせ色に空気が染まり桃が咲き
(太陽)太陽を背に少年は豹になる
(十)再訪十年四国は青き無人駅
(緑)ジローとの縁切れました紙風船
(風)隙間風夫婦に他人の顔が出る
(嘘)いい女嘘の世界を育てがる
(指紋)自分だけの指紋しかない老いの部屋
(人気)すき焼きのなかで人気がない豆腐
(鈴)団体で来る巡礼の鈴の音
(笑顔)ミヤマキリシマの笑顔君だけと
(釘) 人間臭さは廃屋の釘の跡
(愛)暗闇の愛は羅漢を幻視する
共稼ぎガラスのように脆い愛
(王様)薔薇園に居ても王様血の匂い
王様の夢隣国に攻められる
(酒)長男と嫁東京に居る独り酒
(笑)億の金動かす政治的笑い
(嘘)青年の嘘は保身を選んだな
(忘れ)一昨日も昨日も忘れ秋の駅
(噛む)神様が不運な奴に噛みつかれ
もう一度こうやと歯医者噛んで見せ
(樹)まだ樹液あるぞと天を向く老樹
(缶)缶振るな時限爆弾かも知れぬ
(他人)お祈りの前を遮るのは他人