(絵)あぶな絵を見せて搦め手から攻める
(実感)子を抱いた重み確かにある絆
(再婚)先妻の年忌後妻が指を繰る
(仮面)老人性痴呆の仮面だから好き
(神)つまみ食いかまどの神が見ているぞ
(十年)引っ越して十年他人の街と化す
(椅子)椅子二つ重ね電器の傘を拭く
(狙う)妻と子を抱いて明日の陽を狙う
(火山)火山ひとつ男の懐のなかで
(紋)喪の紋が寄って小声になるばかり
(巣)銭儲け上手く二号の巣もつくる
蜘蛛の巣を張られ女の餌になる
(抜ける)とげ抜いてくれる女の手の温さ
(照らす)夫婦だけの舞台を照らす月明かり
女心を曳光弾で照らそうか
(仙人)散髪をした仙人は男前
(玉)人を恋うことを覚えたシャボン玉
(五)五月の帆ビキニ気にする少女ひとり
(不足)女の不足は十年をさかのぼり
(故障)故障した舟漕ぐように母子家庭
(相談)珈琲にまだ手がつかないでいる密議
(荷物)傷ついて男の部屋を出る荷物
(腰弁)冗談の指腰弁の胸を刺し
(口髭)口髭はギター抱えるためにある
(検問)検問へひとり歩きが多すぎる
(山彦)青年が去り山彦は淋しくなる
(吸う)大麻吸う青年にある深い淵
せっかちな男は嫌いジュース吸う
(企み)お嬢サンの企み結婚したいから
(弾む)本心をものの弾みにして女
(迫る)ご亭主の無能に迫るのはおよし
(珈琲)気ぜわしい珈琲茶碗の音も旅
(穴)勤め人逃げ込む穴を一つ持ち
(ジーンズ)中年のジーンズ何処かピエロめき
(ヒーロー)ヒーローの実生活へ司直の手
(再会)再会の駅人妻となり成り果てて
めぐり合うドラマの嘘に少し酔う
(幼馴染)レモン切る幼馴染はまだ独り
(裸)ポスターの裸少女の目に刺され
不渡りの手形のとおり丸裸
(浮気)受付は社長の浮気まで知らず
パフ叩く指に浮気の虫宿る
(漬物)華やかな過去を背中に菜をつける
瓜漬けの味再婚は隠せない
(前) 前妻が腹立てて書く週刊誌
女の背前の男の噂持つ
(続く)熱の床だらだら続く昼ドラマ
(グラス)乾杯のグラスに敵意にじませる
(結ぶ)結ばれぬ縁青年の眉太く
(空港)空港のソファに老いた異邦人
(拗ねる)拗ねたのか物音一つせぬ二階
(ときめき)ときめきが冷えアパートの鍵を開け
(さくらんぼ)いま夫婦危機食卓のさくらんぼ
(振りかえる)振りかえる峠長女を嫁にやる
振りかえる顔敗北の苦笑い
(刻む)葱刻む離婚してから1ヶ月
狂うてる時計が危機を刻んでる
(先生)呼びようがなく先生と呼ぶ役所
(投書)失脚を狙う葉書きを懐に
(改札)半袖が通り改札初夏となる
(露天)明々と露天は初夏を売り急ぎ
(秘書)敵の手を読んだか秘書は微笑する
(汗)葡萄食べる少女は汗を拭わずに
(星)流れ星子のない夫婦和解する
(リズム)鞠を突くリズム大人を意識する
子が離れ妻のリズムが狂って来
(軽い)真夜中に客が目覚めた軽い咳
(女)とげのある会話は女対女
(祝う)酔うているお祝両手握りに来
(街) 大都会闇に刺客をひとり飼い
おとこらの街起重機が天をつき
(石)中年に石の沈黙あるばかり
(魚)回遊魚向う傷なら数知れず
(めぐり逢い)以前より少し痩せてるめぐり逢い
(配る)みな笑顔合格通知配られる
(分ける)相続で家裁まできた婿養子
(板)俎板を拭いてひとり身まだ続き
(混む)ひと混みへ旅の中年ぽつんと居
(粉)ひとり身を守る女の粉薬
晩年の子を育ててる天花粉
(二十)コスモスへ二十歳の心揺れている
(横)横顔を見て姉妹と知る喪服
おせんべい女ばかりの横座り
(手)抗議する手の真直ぐに人を指し
何気なく取れば妻の手痩せている
(声)ご近所の声に混じって妻の声
(讃岐女)かきまぜの味を勧める讃岐弁
(再会)再会を約して植える公孫樹の樹
(電話)パチンコ屋の電話は声を張り上げる
旅の子へ夫婦して聞く電話口
(時事吟)過疎の秋もう見られない赤字線
(雑詠)まんじゅしゃげ亡父を継ぐものなき両掌
(脱ぐ)喪服脱ぎ身内ばかりになる無言
(帳消し)帳消しにならない過去へ鳴る軍歌
(犬)ネクタイをほどき飼い犬吠えたがる
(足)萩の寺女の足で行ける距離
(物)要らぬものひとり暮しの隅へ積み
(叩く)赤ん坊に叩かれ眼鏡ちょっとずれ
鉦叩くお堂でうどん振舞われ
(屋島)再会の人へ屋島は小雨降る
(八)六つ七つ八つ源平餅食べ過ぎる
(扇)舞い落ちる扇をみたは談古嶺
(狸)枯れる松屋島狸に策がない
(情け)深情け遂に讃岐の人になる