幹男の句会吟抄(3)

 

(水引き)儀礼的水引きゴム印押してある

(コピー)これはこれはコピーのような双子来る

(ロッカー)単身のロッカー洗濯物ばかり

(止まり木)止まり木の合唱中年華となる

(投げる)中年の狡さで投げた変化球

(裏)さり気なく笑った裏の致命傷

(松)子の去る日松をバックに撮る写真

(野球)中年が燃える逆転ホームラン

(下駄)スーパーへ気軽うに行く男下駄

(札所)菜の花の中に札所がある安堵

(雑詠)中年の悲鳴にも似た愛唱歌

    子を離し夫婦テレビを高くする

(恋)旅で聞く汽笛鋭くひとを恋う

   今年中恋有りません飯の量

(雲)誰かさんは離婚したとか鰯雲

(ダイヤル)薔薇が咲いたとダイヤルしてあげる

(内気)銭勘定だけはしっかりした内気

(触れる)騎馬武者の鎧に触れる物狂い

(丘)風土記の丘で歴史家になりたがる

(闇)血縁の闇が不出来な子を庇う

(素顔)吉永小百合の素顔が少しづつ老いる

(濡れる)よい明日が来るぞと雨は地を濡らし

(跡)戦いの跡に転がるめし茶碗

(岬)一族の墓は岬に薄曇り

(他人)カレンダー他人になった日を記し

(皿)中流に満足してる飾り皿

(困る)じゃじゃ馬で困ると父の顔つくる

   スナックの付けが溜まっているピンチ

(真)真実は知らさず微笑だけあげる

(矢)おとこ刺す矢に手加減をする未練

(塔)喪いしものへこころの塔いくつ

(友)大欠伸している友が無二の友

(女王)強引なベンツに弱い女王様

(客)正客の不覚は足が痺れだし

(傘)蛇の目傘映画のような恋をして

(木)お地蔵様囲んで咲いたこぶしの木

(歩く)登山靴カールブッセの詩を想い

(余暇)歯を磨いています一日中が余暇

(夫婦)年輪が重くて浮気もせず夫婦

    離婚届出すと他人になる夫婦

(石)漬物に出来る重さを拾って来

(面)八方美人面を被って疲れ果て

(熱い)血が熱く燃える日もある破戒僧

    眠れぬ夜熱帯雨林幻視する

(ハガキ)鮒も泥鰌も僕も元気で居るハガキ

(途中)アンタ老いたなと途中の地蔵尊

    オシッコの途中で背中叩かれる

(明日)明日天気になぁれタワーは春の天

(光) 豆球の光り夫婦は子を案じ

(押す)あの世まで続くおしくらまんじゅうだな

(はやい)少年死んではや一年の焼け瓦

(好き)蛸焼きが好きなら紅を拭きなはれ

(影)男の影がチラチラしだす初秋だな

(街)アバヨアバヨ違反切符を呉れた街

(美人)カトマンズ街道子ずれの美女が笑み

(猫)被爆したはずだ東海村の猫

(ひとり)今ひとり気侭に天女しています

(若い)大義とは推さない顔の特攻機

(姿)腎臓を売れとは悪魔に似た姿

(指)火遊びの指を咎める薔薇のとげ

(自慢)介護要りませんとはささやかな自慢

(池)睡蓮の池で確かに座るモネ

(選ぶ)選ばれたのはオムレツになる卵

(塔)法隆寺の塔ここですか握り飯

(祭)祭りの夜薄情者を苛めたし

(迷う)弁護士も迷う男女の深い縁

(軽い)一億円ぐらいと軽く言い捨てる

(草)草深い里ですと来るEメール

(峠)よい笑顔百の峠を超えたとか

(出る)中座する機会を探す通夜の席

(包む)我が葬列を包むのは銀の雨

(腰)スカートが悲鳴上げてる腰まわり

(集まる)群衆のひとりにコピー人間を見た

    コイン集めて老いをちょっとだけ飾る

(脚本)美しくおんなを死なす紙の雪

(共稼ぎ)共稼ぎ小さな嘘を積み重ね

(飾る)職変えて言葉を飾ることが増え

(とげ)胸のとげ隠し援軍など要らぬ

(経験)マンネリは父の昇った石段で

(階段)階段に老いの絶望感があり

(温室)年金の暮らし温室ひとつ持つ

(傷)私の傷に黄金バットはやってこぬ

(逆らう)逆らえば仏がすぐになだめに来る

(人柄)青年の瞳信じてついて行く

    人柄に惚れたコップがくる飯馬

(当たる)幸運に当たりかぼちゃの馬車が来る

(駅前)駅前で主婦に戻って葱を買う

(軽い)薔薇を買った軽い口笛である

(髪)髪染めて働き蜂にまだ重荷

(すねる)花時計拗ねた女の背で回る

(壷)蛸壷の蛸かも知れぬ勤め人

(貼る)老いの散歩に演奏会張ってある

(絵)絵の通り城あり甘酒売っている

(近所)苦情言うのは近所の猫に似た女

(捜す)猫捜す老いにむなしい政治論

(発展)発展はひとりを活かしひとりを殺

(昼)こまごまと動いて主婦に遅い昼

   五十来ると昼のうどんが胃に残り

(灯)洩れた灯に妻の寝顔が少し痩せ

(午後)ご主人の午後のシャワーを見てる猫

(秋)秋のワルツであなたと揺れる白い部屋

  くるくるくるくる秋のワインは似合いそう

(泥)泥絵具俺をピエロに塗りたがる

  泥の手で汚れたバラも薔薇は薔薇

(雲)苦労話を言いたい雲の晴れ間なし

(音)ラッパ手が来て倦怠を掻き回す

(大地)相聞歌秋の大地は熟しきる

(脱ぐ)どっこいしょ背広を脱げば城は春

(海峡)老夫婦の旅に海峡晴れてくる

(合鍵)カルチュアーセンターで遊んでます合鍵はポチの小屋

 


 

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