2001年作品集

 

日は燦々どこか静かに壊れてゆく 

そんな筈ではないがどうした手の震え

車椅子の未来を幻視する寒さ

幻聴あります今は花野を思うのみ

 

 

熊野古道

ザック背に滝尻王子よく晴れて

悪四郎山を一気に鈴揺れる

コーヒーに近露王子よい広場

旗ひらり熊野大社の八咫烏

 

老いひとり河島英語の唄が好き

ダンボールぺらぺら燃える自己嫌悪

痛む膝頑張れ寒気団来たぞ

距離すこし置いて熾き火を確かめる

 

新雪はさらさら充足感がある

グループが少女に戻る雪だるま

雪踏んで越えねばならぬ山ひとつ

春匂うなりアイゼンに噛んだ雪

 

 

熊野古道(大雲取越え)

ザック背に暁闇を行く那智大社

舟見茶屋小手をかざせば熊野灘

幾千の巡礼の霊地蔵堂

貴人には雨の越前峠晴れ

 

 

良い日和鯛の刺身が食膳に

葱坊主ぬっくと立ってみんな留守

葉が光る眺めるわたし自由人

一合に酔うて愛するものすべて

 

安堵感草の匂いに満ちる刻

参列者のひとりと昔話する

もし僕が鷹なればよし蒼い天

哀しいと思う鉄塔に雨降れば

 

雨女雨の匂いを連れてくる

初夏の花いまわが胸に咲き乱れ

右クリックすると潜んでいた掟

こんくりーとの壁だよ優しさを剥げば

 

素麺を壱椀食す初夏の宴

楽園はハイビスカスの咲いた島

ちかずくな心の傷が癒えるまで

受け太刀になって怯惰を見に纏う

 

焼け跡の草と瓦に少女の幻影

旅僧は私か夏草は茫々と

線香の匂いに蘇る死者たちは

丸薬がころころころころと夕餉

 

水割りをゴクリと思索派を気取る

鮫が泳ぐとにんげんは無力

降水量ゼロで猫まで疲れ気味

着メロは無職のおまえ何してる

 

秋刀魚よ秋刀魚久しく海を見ていない

茶髪が走って来るアジア系の笑顔

秋のレールに想い出ごっこしてますか

おばさんと声かける懐かしいなあ

 

 


 目次へ