選 者 吟

 

香水を振り撒いておく蟻地獄

読み切った筈の一手が狂う棋譜

ポイ捨ての缶を見ている子の未来

気まぐれな喫茶飾ってある野菊

一斉にいろはにほへと書道塾

ABCここが犯行現場だな

女教師のタクトの先のどれみふぁそ

ワンツウスリー恋のノックは喧しい

肝臓を裏切る酒の旨いこと

指折れば病名五指に余る酒

奢られる酒は苦いと君知るや

独り酒人を恋しと思う酒

秀吉が天下睨んだ一夜城

世は移り小田原城に遊園地

なんとまあ閉門してる伏見城

春近く伏見稲荷に雪が降る

酒を飲む僕を睨んだ獅子頭

春雛の仕舞い忘れも酒のアテ

僕の歯を査察しているレントゲン

焼き豚の一切れが棲む冷蔵庫

お茶の間は遊び感覚のイラク

微笑して消音銃を持つ妻よ

制服を着せられ鬼も体制派

古里を想う麒麟は目を瞑る

満月へ願掛けをする恋娘

マンションを買い葉桜を意識する

春うららオーデコロンが匂う恋

野遊びの二人に初夏の匂いする

喫茶店可愛い顔で吸う煙草

ケイタイの茶髪が見せる脚線美

膝を打つ悔しいけれど他人の句

結局は捨てるしかない時が来る

ルノアールの裸婦を置きたい春の公園

紡ぐ糸夕鶴の部屋薄明かり

火を囲むどよめきを聴く弥生土器

老いの咳金色の海暮れなずむ

落陽の海放哉が呟くか

昼酒がとろり胃に染む蝉時雨

矢印を追えば花輪はラーメン屋

キューピット空に目出度い伊勢音頭

火炎土器縄文の唄聞こえるか

戦いの音でジェツトが征く平野

満月もやがて欠けてく老いの椅子

天女降臨リムジンがどんと着き

古稀が来てまだ楽園を探してる

またたびを買いにと猫が持つ小判

風吹かぬ日だと桶屋が不貞寝する

樹を落ちた猿は人間の先祖

宝くじ当たった途端車両事故

正月の猿に被せる赤烏帽子

芸無しの猿がひねもす見るテレビ

野猿には功名心など更になし

野に帰る夢は捨てない檻の猿

居酒屋で転寝してる酔虎伝

いい加減テレビに飽いている座椅子

てんぷらで食べる牡丹も花は花

見てる間に一升飲めばもう酒仙

見渡して帰る上司の作業服

一斉にケイタイ開けている電車

古里に地図におむすび山を描き

ミニの娘に花の蕾と言い難し

山を越え野を越え送電線遥か

オレ酔うてる確か酔うてる靴がない

手作りの弁当ソーセージが鎮座

道しるべおむすび山を描き添える

野も山も光って春の時刻表

テルモスで指さす嶺に日が当たり

バンダナが風に吹かれて尾根を知る

コンビニの寿司を展望台で食べ

茶髪の娘せっせと島のお接待

フエリーを待ち侘びている島遍路

島の寺地元の人の高笑い

人名の墓を拝めば頬に風

もう三つ葉躑躅が咲いた土佐矢筈

京柱峠の茶屋で脚を撫で

大麻山遊園名残の桜散る

カタクリはぽつんと赤星山の雨

自画像に引っ込み思案出ているか

初夏の風猫が畑を掘り返し

山向こう童話のような雲が浮き

奥山の匂いを運ぶ梅雨前期

おすそ分け古い新聞持って来い

種まいた畑で猫が踊ってる

パンツとは女性が履いているズボン

薬まだ足らず漢方薬を飲み

日輪を背にして裸足蛸を提げ

沈黙のコーヒーカップに射す夕陽

讃美歌が聞える見知らぬ街の朝

逞しい漁婦が絵になる北の海

噛み付きそうにパソコンの詰め将棋

着信音ハンガリア舞曲とはド派手

スキャナーに見合い写真を入れ添付

麻雀が好きと書かない紳士録

濡れたのは雨か汗かと嗅いで見る

まあいいか車庫の扉に当たっても

コマギレで頑張っている元気豚

かぐや姫生まれ故郷に竹がなし

DNA採られ浦嶋べそを掻き

金時のまさかり搭乗口で拒否

一寸法師ペット売り場で飼育され

寝太郎は福祉事務所を慌てさせ

本籍は桃と書くのか桃太郎

タクシーで行けば兎に負けぬ亀

花咲爺どんな灰だと研究所

すき焼きの肉が残っている時勢

遊びではないが結婚せず別れ

大掃除昔々の写真見る

一円を誰も拾わぬアスファルト

昼間には見せない顔で屋台酒

逃げるのを知って上司は苦笑い

グリーン車に花束がある或る別れ

血を曳いた短気で魚屋が似合い

タクシーが鹿を見つけた温泉場

春よ来い寒さで痛む左足

湯治場の昼はポケットウイスキー

痛風に効く飲泉を水割りに

行列を尻目に春のはぐれ旅

老人の頭が並ぶ理容室

お客さん忘れ物よとまた帽子

ゆっくりと息しなさいと女医師

すぐ楽になるよと腕にまた注射

進軍ラッパは聞きたくないよ負け戦

マッチの軸折り誘惑に耐えている

追っかけをしてます孫もいるけれど

カップルで泳ぐビキニは異邦人

空中遊泳してます私の定年後

パイ缶の味焼け跡で食べた味

異国の神にも日本語で祈る

敬礼で駅長が去るターミナル

どれみふぁそ尼僧が唄う聖歌隊

米捨てる時代が平和なのですか

てふてふが止まるハートは恋最中

田の神を怒らせている除草剤

にんげんと言おう最後の言い逃れ

ぐい飲みでワイン飲んでる午前2時

沈黙は鍍金の金ですぐに剥げ

極楽へぼつぼつ行こかまんじゅしゃげ

神様の失敗作だなあ音痴

暇そうな人をお喋り狙い撃ち

ベッカムに燃えた純粋の十九

朝露へお地蔵様は傘がなし

泡立ち草一杯咲いた昼の土手

乾杯の声喧しい夜のネオン

軒先の雨の音楽聞く胡座

舌もっと出せよと美女へ言う内科

蒔いた種小鳥に獲られ春が来た

孫達へホワイトデーはみなキャッシュ

辿り着く闇に山小屋が光る

セクシーな背なが男を軽んじる

恍惚の母草笛を聞いてるか

客席に恩師見つけた晴れ舞台

堅気のネクタイを嘲笑う深海魚

天地鳴動したら動くかうちの人

雪降ってきたなと誘う山仲間

塩味のまんじゅう食べて仰ぐ城

日の丸へ遠い戦を知る痛み

溺れてるぞと騒いでる向こう岸

銃向ける人を見詰める獣の眼

野仏の無欲を知れと風が吹き

夏色の女を追っかけるトンボ

少し食べ少し眠って夏の酔い

海は夏色薩摩焼酎がまわる

無人になった夏のアスファルト

飾り爪挙げて憎っくき恋敵

家庭内暴力茶碗が割れただけ

探すとこないとお尻の下へ敷き

弱点を衝いてる飾らない言葉

転々と病院替える注射針

匿名の槍に突かれている役所

アルコール駄目よと聖書かざすされて

視聴率愛のドラマを叩き売り

鈴なりの石段押されて見る紅葉

山は雪ですか半袖で乗る電車

謹厳実直酔えばその場で蛸踊り

サーカスの虎が横目でじろり見る

 

宮古島紀行

 

とりあえずオリオンビール島の宿

お湯割りの熱した舌に海ぶどう

泡盛の酔いあり東平安(ヘンナ)崎

Tシャツを買った二月の25度

諦めた笑いは神に近くなる

君も老い二合の酒に酔い給う

どうにでもしろと揺れてる吊るし柿

老雄の背中がまるい海水着

雪しんしんとうに冬眠した女神

盃は一つテレビを見てお酒

雪山の話で弾む牡丹鍋

春や春悪友と会う赤ワイン

イカナゴをお裾分けする春うらら

ほろ酔いは土手の土筆で飲んだから

黒猫が悠々通る朧月

駅までの道新聞を陽にかざし

よい女はたちの頃に会ったなら

助かった人から食べる握り飯

再生水ビルのトイレを支配する

起きてるか鰯を食うか漁師宿

七月をめくると見える夏の海

目薬を入れて涙よもう一度

秘密とは隅に置いてる男下駄

望まれて嫁く方言の違う里

島遍路去りオリーブの実が稔る

都市ゴミで育った高血圧ネズミ

お隣も向かいもカレーが匂う路地

宝船自分ばかりを乗せたがる

民宿のここも魔除けの貝を吊り

心中のふたりが揚がる漁師町

ぶつぶつと浮気封じに効く呪文

夏休み無人の廊下蝉しきり

素麺をすすり遠雷聴く夕べ

エンピツで書くのは困る届出書

共同参画なんで膝など貸すものか

夢破れ三億円のゴミ捨てる

 


 

 選者吟集へ