選者吟集へ
握手した手のひら敵意感じてる
パチンコのこぼれ玉にも似た孤独
行きずりの人の笑顔はすぐに消え
ひとり旅カールブッセを想う山脈
音楽とパンで老女の朝が済み
黒潮が蛇行した海クジラの背
落陽を呑み海暮れる過疎の島
大丈夫ですかと美女が微笑する
四面楚歌疫病神は僕らしい
賛美歌が流れる島に旅の雨
茸汁カナダ産でも良いですか
はみ出した蛸まっすぐに海を恋い
独りだけ怒っています唐辛子
悪人を斬った主役へ蒸しタオル
昼飯へマップ拡げる主婦の会
保険屋へ断わり妻の守備範囲
魚偏が欲しいと秋刀魚食べる老い
欲望の果て末等の宝くじ
ビフテキという老人は着膨れる
大百科事典をめくるせり、なずな
飲み会で孫と病気は止めたまえ
もう限度二合の酒とエイのひれ
よく喋り笑う自分が居るビデオ
山陰の雪を話題に飲むビール
クリックの指で解放される主婦
海外留学碧い眼の児を抱いてくる
腹いっぱい食べたい昭和二十年
日めくりの明日が白紙になる不安
赤白黄ポケットからはみな薬
おでんつつく飾る世間にもう飽きて
戦いがなく少年は肥満する
ハンカチで口拭き老いをまざまざと
ガラスも曲がる憎悪も曲がるその坩堝
噴水泉根性なしを責めて噴き
故郷の海でハンカチを浸し
歩くひと走る人ツアーの列乱れ
顕微鏡浮気の虫も覗かれる
補聴器が悪い話はカットする
風神の袋が拾うアスベスト
ほろ酔いのステテコがゆく田舎道
写真なら修正するが鏡では
老人会昔話の果て軍歌
花嫁もちゃんと食べます披露宴
小心な僕に天使の羽根がない
生ビール飲み頃という温度計
朝食におにぎり旅はまだ続き
短パンへ暑さが攻めるアスファルト
役職の順でＯＢ会の席
男たりキラリ切れ味が冴える
タンクトップ夏のリズムを謳歌する
今日は冴えてる宝くじ買おうかな
奥様がリズムに乗ると敵がなし
旅三日何と膨らむ小銭入れ
年賀状だけの仲ではなかったが
酒も良しヤキトリもよし君となら
葉鶏頭ひそと兵士の墓へ供華