川柳 句集 その1

 

 

オレンジカード

レールウェイたんぽぽの黄が可愛いいな  

ポシェットはブルーにしたい風立ちぬ     

ボクの夏の点景となるオレンジカード

濤沸湖あたりにメランコリー型の冬

かんかん照り

父と子の一緒の影へ陽が落ちる

嫌われたイバラ黙って雨に濡れ

行きずりの人と笑ってすぐ別れ

商運をつかんだ口の真一文字

宣伝の紙風船をふくらまし

石投げた子が逃げ後をみんな逃げ

商人の意地は小さい損をする

馬の眼は真昼の雲をうつす秋

寺の鐘遊び疲れた子らへ鳴る

真剣に風に吹かれるビラを追い

お向いの灯にじゃんけんの輪が崩れ

ぼんやりと脂肪ばかりの女を見

空襲の夜明けの星と今日の星

窓に腰かけて飛行機飛んでいる

大安を君因習と云わば云え

先に行く女がひょいと横へ折れ

押売りの持つややこしい証明書

自転車に乗せた女を危ながり

月が呼ぶ砂漠の恋にラクダの鈴が鳴る

眼だけの顔の蒼さへいん石の落つ

かんかん照りの日をミッチャンと歩いた昔

病人の気はわからずに口を閉じ

宣伝の世に葬儀社もおくれまい

友情とすこしは欲もからむ世話

都会の灯に近く単線を佇ったまま

ほこりっぽい踏切越えてキャンデー屋

眼帯をとり星みれば星流れ

流行にうとい女と女が見

託児所のオルガン蛙の子にとどき

世を嘆く人へ自転車つっかかり

華南にかげのある地球が動く

竹島の土を血で洗うのではない

南東の戦乱動かずに酷暑

雲が千切れて古着屋の旗がひらひら

指環した男の肩へ星が落ち

何時果つるいのち波濤の如き虚無

音のない淋しさは病の障子

張りのない生活の白いページ

現代の恐怖に月の満ち欠け

広場の人だかりに背を向けて陽のかげる日

焦燥と淋しさが一緒に来て駅の時計がくるり

男の心は傷つけれれずとも血を吹くもの

うすっぺらの思想を持って世に溺れ

手袋を脱いで不敵な男の眼

みかんの黄幼い頃の恋思う

よういわんわいうておしゃべりする男

ぎりぎりの線で真面目な男なり

人の良い夫婦で客に餅が焼け

処世術人を欺すに馴れたまえ

時勢云々と学生の暇を衝き

ばらばらの拍手で学芸会がすみ

残業なし屑入れの底ぽいと打ち

オコンバンワとおっちょこちょいのわたし

おばさんの娘は家を出たまんま

肩叩く人知らん人困ったな

法律の通り銀行差し押さえ

パン焼いて真正直に世におぼれ

ピーナッツへ猿の一匹後ろ向き

旅に出て気軽うポケットウヰスキー

こんなに晴れているのに葬式がある

街の印象

たそがれの花舗から出れば散水車

焼け跡はそのままながら草が枯れ

サイレンのあと公園のひそと昼

競輪のビラ舞い落ちるとこ貸本屋

朝もやのネオン残骸のように点き

鯉のぼり

袋だけ残してパンを裸足の子

少年の抵抗遠くで石を投げ

汽車着いて大衆食堂混んでくる

五十円妻の財布に借りたまま

日曜日妻の掃除の派手な音

妻を呼び馴れず雑踏で戸まどいす

犬の顔仔細に見てる犬の医者

ステテコで坊さんが掃く朝の墓

顔に飯つけて泣いてる台所

たこの足囓り政治を気にもせず

おつかいに年上の子が先に駈け

集金人ぽかんと怒声聞いて去に

金持を憎む言葉に飽きたれど

麦わら帽住宅街はしんと昼

すもうとり草に少年の夏があり

パチンコとテレビで夏の勤め人

パチンコへ酔うてはいるが本気なり

テレビ見る店でみぞれがすぐに溶け

長靴の子ボチャボチャ窓の外に消え

寒空の星に鼻緒を切らした子

鯉のぼりむかしむかしに戻った日

唇が乾いて幻影と耳鳴りと

夫婦して南京豆を買う日あり

桟橋の灯がだんだんに消えて朝

水割りのような思想となりにけり

女房も貰い口数やや多し

なけなしの金を手帳にちょいとはせ

雪よ降れ降れこの日に若き父となる

妻の下駄親指に履き朝をせき

父ちゃんと呼んで女湯からシャボン

讃歌

鯉のぼり五月の愛の讃歌とも

顔洗うどの手拭いも乳臭し

調乳に三十七度の熱を起き

外気浴帽子斜めにして眠り

粉乳の濃度を云うて争う日

花の残映

青年の覇気風船のように裂け

権力に権力抗す凄まじさ

大道を斜めに歩く気概あり

焼場

薪で焼くのかと斎場に奇声が出

新墓がまた出来ているおむつ干す

旅役者が来て斎場に小屋をかけ

捨て犬が鳴くと焼場はたそがれる

雲が出て焼場のけむり墓を這い

無題

長剣を偲ぶ煙草を持ちかえる

迫力なく七月をソバすする

安保潰れてより青年に政治なし

戸惑うた少女の髪は汗臭し

妻がいて女同志の語をさがす

歪みある言葉へ鎧う人知れず

 

暁闇

父子往く処中都市の貌曝す

膚寄せて父子現在に賭すすべて

魚焼く朝餉は九月漁師の如

暁闇を父子が帰る海を背に

結婚が迫りデートも所帯じみ

赤だしの卵つるりと胃へとどき

青年の世慣れず保身口にする

埋立地を貫く送電線に冬

華やかなピエロに青年はなりぬ

ニン月の詩人の髪をからっ風

冬の凧落日の野にひとり舞う

胃の荒れを意識において冬のバス

冬の花舗花の残影ちらとバス

春が棲む山峡を恋いひとを恋い

花曇り悔悟すること少しあり

朝もやに幼稚園児の黄が動く

雲たれてめし屋ののれん風はらむ

海の音人を背きし背かれし

のろのろと野猿ら昼の陽を仰ぎ

 


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