川柳句集その2

 

コカコーラ

廃液の匂いすすきの風にのり

レモン手に妻のことばが少女じみ

権力を背に会うときの事務机

賽の目のくるくる廻る定めかな

たんかひとつ宵の闇夜に鐘が鳴る

唐傘やおんなのうなじから暮れぬ

ポスターの水着をみながらカレー喰う

核実験聴く軽い頭痛がつづいてる

アドバルンみな夏服にかわる街

単身赴任でポケットの鍵鳴らす

コーラ飲むおんなの喉が天を向き

鉦叩くおとこへ海が暮れていく

砂山の砂その果ては天の果て

島は雨ばかりオリーブの実を貰う

夜の舗道主役になれぬ男たち

バスに乗り継いだ村にあるコカコーラ

タンポポに今日も子供は家のなか

麦の青倒し鉄骨トタン葺き

消費とはいまボルネオの海老を喰べ

資本が来て餌にする海の青

スーパーの広告主婦へ昼も夜も

セールスも技術革新などに触れ

飛び込みのセールス不審な眼を意識

麦の青セールスしかとみた挫折

セールスの昼の胃を衝くビル工事

セールスの眼ざとくみたは他社のビラ

春の風頬にセールスまた遅刻

母も子も疲れリュックは玄関に

女店員食器を運ぶ派手な音

ブルドーザーの音高らかに田を捨てる

シャボン売る虹華やかに午後一時

詩集など持って未熟な主婦である

おぼろ夜の双眼鏡を空へ向け

飾られたリボンのように佇つ少女

放たれた矢に振り向かぬ台所

城壁が崩れておんなうろたえる

河口には潮も混っている妥協

単純にラーメンすするひとり居て

こころ良く見知らぬ街をサンダルで

コーラ万才星条旗を振ろう

豚二匹歩くよ都の暮色に

日経を読むインテリの無気力さ

単線の果て故里も暑きかな

流れものの身に歓迎の辞が重い

権力の好きな秩序へ身を没す

花鋏すでに女の膝に馴れ

老いの耳どこかで鐘が鳴っている

海光る逢いたいひとに逢わず居て

父のない子は電車に乗って逢いに行く

老婆ひとり歓呼の声は耳の底

華やかにバトンガールが過ぎてふと

鉄骨の真下で秋の実が熟れる

熱帯魚みてる疲れは熱すこし

花を抱く老婆けたたましく笑う

熱の耳どこかで敵が鉄を打つ

青葉かな中年茫と手を洗う

すぐ豚に堕ちる知性を勤め人

オキシダントの空から舞い降りる黒い鳩

過激派をつなぐ鎖のない田舎

祭ばやしへ主婦の鎖をはずさねば

燃えるもの疑いもなく小市民

ポスターの裸婦まぎれなく眼科から

沈黙は小骨ひとつを捨てられぬ

暗闇の矢を避けながら談笑す

企みに手を貸してから陰鬱の日々

吐息ついても荒野から逃れ得ぬ

主義のない拍手で席を盛りあげて

年金へ老いの過激派とはなれず

逢えるひと逢えぬひと休日は夕焼ける

御仏は逢える想いに燦とあり

情念が塔を鋭くよぎるなり

塔仰ぐ柔らかに光る髪よ

衝きあげる思いで坂を駈け抜ける

そのときはその咲く花に埋もれたし

見てごらん蝶の死骸が床にある

千年茫々

殷殷と百鐘聴くか寧樂の民

遣唐船蕩揺満月の海ひかる

万巻の経は西域の駱駝の背

哀しみの胡姫に長安城更けて

無題

試食品無料へ主婦はためらわず

東京に疲れたこ焼きつついてる

朝のコーヒーに誰かが傷ついて

呼吸音狂うものなき焦りかも

半円をめぐる呪縛のなかに棲む

その魔性無邪気に両手差し出して

ネクタイを締めて甘えを男消す

裏切りに馴れてけものの毛をまとう

棄てられた犬に自活の道があり

蛾の影を見た昂りと寝汗とか

堕ちるのに馴れまやかしの笛を聴く

その音は風かも知らず死者かも知れず

睡りの彩鮮やかに麒麟佇つ

全力疾走の喘ぎは肥えたおんなの唇

競技場の歓声小耳に銭のこと

少年の思慕かも受胎告知の図

青年に縁なき日傘遠ざかる

扉を押せばよい誘惑へ迷うてる

仕損じたゲームは憶面もなく逃げる

黄金のナイフで突いてみる懶惰

柔らかなけものの重量感よ子よ

流藻

乳暈を愛して神は老いぼれる

獣神に凝脂の四肢が横たわる

衰えた神にニンフは舌の鞭

処女抱擁神は紅蓮の天に座す

黄金の矢に射抜かれた神の痴戯

神の前で媚薬を注ぐ油壺

花芯までまだ届かない神の距離

萌えるときの乳房は神に許される

箱枕に神はのたうつ萬の髪

流れ藻に神の午睡は深くなる

少年期

とり残されたひとつに玉葱の畑

喪ったものが神社の裏にある

冗談の指に才媛撃たれたり

掌に蜜柑幻聴は続くなり

菌むくむく中年を責めにくる

口髭はギター抱えるためにある

ふとおんなから云い出した氷水

消えかかる虹に賭けたい小商い

夕立に少女は乳房まで露わ

押しよせる草の重さが眼を奪う

柔らかな指からいくつかの硬貨

花びらを両手に少年期が戻る

おんなおんなおんな砂浜はおんな

スリップのおんなが通る猫も通る

ひらがなでおんな団扇を持つ指も

父が征く丘竹馬で見てた

狼はすてきな服で狩りに出る

望郷の丘に少年期を埋めて

娘の匂い一瞬乗降口過ぎる

紙燃やす漲るものが欠けたまま

病むことの不安がつのる葡萄の絵

消息はバーのおんなと棲むとだけ

正義派をおんなの知恵が傷つける

かしわ手を打てば神様との出合い

食卓を子連れが占めるゴマの粒

陽を吸うた芝生素足の娘を愛す

カーテンもはや兄嫁の彩となる

勤め人踊るどこからの譜か知らず

割箸で指す嬌漫へ眼を凝らす

くわえ煙草の野性抑えるすべもなく

コーヒータイム犠牲の羊探してる

同僚をきのう暗殺した笑い

爆音が飢えた記憶を過ぎていく

不意に奪う青年の怒り肩

青い馬画廊の壁にいなないて

水曜のけだるさを編む籐の椅子

引率の笛へ土産屋いま戦さ

原爆の記憶鳥居は佇立する

少年の闇の記憶に朱の鳥居

 


 

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