レモン
跳び箱の距離をわが子よ恐れるな
ボーフラの果ては気ままな蚊で終る
中年に転びたい膝見つからず
援軍が去って渚は冬ばかり
休日のプランおんなは洗いもの
羽根をつく太郎に偏差値が重い
本心を洩らして敵も疲れてる
陽の当たる男演技を光らせる
本当の敵がわたしへ微笑する
光らない靴の背中にある社運
この重さたしか砂糖と云いあてる
敵ばかり多いと思う旗手の老い
饒舌を叱るいつもの妻と祝い箸
きりきりと肌刺す朝に妻は臥す
寒い夜明けのコーヒーの香と妻と
しのび笑いして花道はつくられる
のたのたと歩くおんなの文化論
このビルのどこかで火薬つめてるぞ
子の語尾に侮りがある黙ってる
ポケットに丸薬ひとつ朱印押す
同情をされる男の先はここ
大売出しの正義をつつくニセ電話
視界ゼロ中年燃えること多し
牛乳をこぼす不覚も四十から
暗闇で毒がコーラに仕込まれる
そしてそしてコーラ神話となりました
星条旗はためくコーラ行進す
コーヒーの毒で戦死する勤め人
中立を許さぬ毒を用意する
差別消えず飼猫の眼を光らせる
清算をすべきことあり走り雨
ひとを恋うことを覚えたシャボン玉
午後の雨けものは傷を嘗めるべし
少年兵ひとりベトコン河の夜
不満たらたら飼われてる首の鈴
たんぽぽに触れる午後から寒くなる
迎合論ばかり白ける夜のテレビ
大阪に昔棲んでたへらず口
子の背なに触れる起伏はすでに過去
民主主義の種から育つ地域エゴ
たかが用水路に政治があるうそがある
原子力船彷徨風邪がまたひどくなる
週刊誌では鮮やかに別れてる
見せかけの生活に飽いてきた芝生
食卓のレモンで朝の胃をだます
月光に猫の死骸が浮んでる
散薬に咳こんでくる深夜の壁
眼底の麒麟ゆらゆらゆら影絵
月の海ハマチは天に還りゆく
赤潮の海酸欠の海前の海
無風の夜ハマチは喘ぐ薄明り
漢方薬飲んで経理に策がなし
ひしひしと銭の重みは午後三時
資金繰り表の朱筆は敗けいくさ
わらしべ
吊り皮に中年の指頼りなく
日常が鉄鎖となって薬飲む
中年の胸に花園ひとつ持つ
乾杯のグラスに敵意にじませる
すぐ裸になる先輩で慕われる
呼びようがなく先生と呼ぶ役場
峠茶屋晴れて県外車が続き
疲労濃く男まさりが飲むグラス
前妻が腹立てて書く週刊誌
人脈のうずに落込む勤め人
湯上りのおんながつまむ腰の肉
幻に賭ける手あかのついた賽
おんななら追う幻の王子さま
院展を見たけだるさのある無口
黒人のリズム脈打つ祖先の血
逆らえば仏がすぐになだめにくる
階段に老いの絶望感があり
中年の傷はそのまま致命傷
松を見ている男にうそのない瞬時
屈辱の悲しみ男のふところに
疲れた日男の肩に風があり
トロイメライの淋しさは喫茶室
舞妓の絵男の思い沈んでゆく
万才三唱男はうその戦いに
真直な軌道にひとは惑うかも
ひとあまた軽い言葉を甘受する
わが呼吸の乱れる斧を振りおろす
書類めくるおとこ一図なとこもあり
コーヒーをこぼす男になり果てて
ぼろぼろの太刀におとこの衒気あり
仲間はずれの少年豹の身のこなし
管理職虚空をつかむにも似たり
こわごわと女同志の冷用酒
集金の背なに日輪輝やけり
おどおどと笑うているか夜の鏡
子が似てきたという子の饒舌さ
その配慮わたしを縛る縄となり
歯ぐき洗うここにわたしの影があり
わらしべの剣へ魔軍が押し寄せる
十字架を背負う中年を焼く炎
老いたくはなしタンポポは野に溢れ
キャンディーズの印象で売る春のショウ
お嬢さんの企み結婚したいから
ご亭主の無能へ迫るのはおよし
本心をものの弾みにしておんな
あこがれは水着の白の似合うひと
コーヒー茶碗の音に眼覚めて別れねば
宙飛んでくる盃にある敵意
休耕田つぶしモーテルまたひとつ
ぜい肉がつき喪うてゆく月日
尼さんの困ったことに鮹が好き
露店の灯ここで二人は別れねば
責任を脱れる返事へり下る
敵の手を読んだか秘書は微笑する
団体の野次に困っているガイド
説明のうそを足場にして税吏
無人スタンドで人間を信じてる
二号車は都はるみに似たガイド
単身で来て食堂の味に馴れ
お内儀さんの愛想で持つ小商い
民宿のトマトがうまい瀬戸の島
受付が仕事の顔になる一時
四十が来た運命を甘受する
蓮開く
秋晴れのよい一日で骨拾う
人はみな極楽へ行くまんじゅしゃげ
喪主の座に雑用どっと押し寄せる
ご仏前のローソクを消す昼の風
満月を浴び通夜の客去ってゆく
遺影にするアルバムを繰るひとり繰る
紋付を譲られ四十の重さ云う
ソフトボールして受験期を子が耐える
現在過去未来洗濯機が廻る
蓮開く四十のおとこと四十のおんな
鮹壷
老いの散歩に演奏会貼ってある
鮹壷の鮹かも知れぬ勤め人
髪染めて働き蜂にまだ重荷
いつか火を噴くこと忘れ管理職
湖光るわたしを埋めに行く夜汽車
本当に酢っぱい顔で持つ蜜柑
噴水のそばでもつれた別れあり
別れ話のおとこ酢鮹をつついてる
通夜の座へ遠いギターが聴こえてくる
耳打ちをして中年を鼓舞してる
中年をおっちょこちょいで偽装する
中年の一図に菜食主義となる
薩南紀行
ひとり旅薩摩に溺れ湯に溺れ
少し酔う薩摩なまりの店の隅
スカーフをなぶって錦江湾の風
ここは薩摩のここは知覧の水たまり
トカラ馬ぽくぽく歩む銀の雨
句碑ひとつ東支那海昏れむとす
指宿の雨を背に読む文庫本
行きずりの少女に奢る薩摩汁
バス旋回西郷洞窟ひとまばら
女生徒の肩越しにみる桜島
錆びたナイフ
かまぼこの鯛だけ残る冷蔵庫
幾山河親へ花嫁からのバラ
嫁さんの方が勝気な塩加減
どっこいしょ背広を脱げば城は春
荒巻きが来て引き出しにない鋏
勤め人錆びたナイフになる疲れ