川柳句集その4

 

さっぽろ紀行

ここは北ここは白樺藻岩山

小手かざし風の羊が丘に佇つ

唐きびは売切れ支笏湖は暮色

ふつふつと北の地獄は登別

伊達の街ようやく五月散る桜花

旅人へ昭和新山噴煙す

コーヒーの香へ洞爺湖はひそとあり

光溢れて中山峠晩い雪

手を合わす熊へ定山渓寒し

ひとり来てひとりサッポロビール園

食堂車

中年へワルツは戻らない月日

パン食べて中年発言権がなし

団体のリボンが騒ぐ夜の神戸

気ぜわしいコーヒー茶碗の音も旅

敵陣へ乗り込む低い笑いする

昼寝から覚めたか茶碗洗ってる

帰還

海向いて淡路の寺はみな迎う

位牌抱き島を歩けば薄き霧

過去帳に先祖を捜す島の寺

菩提寺は遠し淡路の海ひかる

身寄り死にはるかに流きし月日

白髪の遺影ひたすら淡路恋う

妻子には逃げられ老いの死す釧路

故郷は幻根釧の野は吹雪

雪しんしん道東の地はみな無色

新天地目指し一家が発つ淡路

無題

猫舌が居てじれているバスガイド

放浪癖のある少年が猫を連れ

群れ追うてすこし疲れた管理職

鉦叩くお堂でうどん振舞われ

気の重いことで故郷へ行く切符

朝の珈琲にラジオ体操鳴っている

子は遠く夫婦でつまむ握り鮨

猫捜す老いにむなしい政治論

絵のとおり城あり甘酒売っている

自由とは食堂車で飲むビールなど

もう秋か書類に埋まるニヒリスト

夜景観るひとの係累には触れず

オホーツクは春

緑濃き上野に彰義隊の墓

手に蜜柑函館山に旅愁あり

バス待てばまだ早春の春採湖

硫黄山朝の噴気をしかと見て

羆いま居らず摩周湖は凍る

残雪の美幌峠にひと多く

トド吠えてオホーツク海は黄昏れる

コート脱ぎ能取岬は風さかん

知床へ小手をかざして天都山

子等と呑む今宵札幌ビール園

ゆで卵

挑む眼の哀しさばかり知ってきて

老いしかな五本の指を陽にかざし

中年の悲鳴にも似た愛唱歌

ない袖を振って奢るも勤め人

主流派に挑む捨て身を遠巻きに

少女らの甘い匂いが満つ列車

サラリーマンの朝はいつものゆで卵

わだかまり溶ける笑いがある青葉

何気なく子の帰る日を妻に聞き

ビタミンの神話中年信じたし

手を振れば答えるひともある未来

中年の荒野ばかりを見る吐息

五十

鍋の湯気頬にあたって五十くる

五十来る魔性なんぞは更になし

五十来るわたしも孤立してきたな

やがて野に花溢れんか五十来る

野生馬の如く駈けたし五十来る

杏開く五十の動悸おさまりぬ

開花情報ひととき少年に戻る

夕暮れの酒場へ鳩の如群れる

子との距離鈍い痛みとなる五十

中年晩期の休日を行くズック靴

麦の穂が熟れて五十の歌謡曲

ヒトケタへ新宿は雨酔えと雨

消費量伸びます朝から飲むビール

オカアチャンの秘密ボク知っている家出

空席へ予約のように置くバック

次期社長すこし軽いという噂

旅人に栄転の輪がはしゃぎすぎ

老眼に気づくショックはとうに過ぎ

マイク持ち五十はすぐに咳払い

弥生土器みてる五十の好奇心

朝の体調を打診する五十いま

すこしずつ崩れて五十多病なる

五十沈黙命令せんとするは誰

五十の肩払って菜畠に微風あり

寝不足の中年刺しにくる朝日

夫婦しか居ない夜更けへ風の木戸

食卓の花を話題にして妻と

参謀の位置で振りまく空手形

ポケットのこぶしオポチュニストを嫌い

時刻表の上の電車が向う秋

みな遠い瞳をしてヴヴィアンリー憶う

中年の群れて溺れゆく月日

中年の戦さ数字をぶっつける

ガラス拭くバラのあでやかさを見たく

旅で聞く汽笛鋭くひとを恋う

縄文の世より争う土偶の顔

華やかな紅葉五十の杖と妻と

峠の展望五十の脚を開放す

七色の虹は瞬時に消え五十

五十ひとりトランジスター鳴る荒野

五十の幻想を駈けていく騎馬の民

五十の眼にモノクロの裸婦髪を梳く

レモン苦し背中に五十しのび寄る

旅人を愛してオレンジは熟す

中年の背へ落日の華やかに

花の宴ひとは疎遠になり易く

フィリッピンの娘おどおどと春のクラブ

歌唱力ためされているご招待

その虚像見破っている勤め人

華やかな未来信じている獅子座

隅で咲く花へ他郷の子は無音

 


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