初心者のための川柳作法

 

 「紙とペンと5分間があれば川柳ができます」と言いますがそれだけで川柳を作るのは少し無理です。自分の見たこと、感じたことを5・7・5に纏めればいいのですがやってみると舌足らずになったり字余りになって収拾がつかなくなります。相手に自分の思っていることを5・7・5でうまく伝えるのには練習をしなければなりません。 例えば〈いつまでも陽子陽子と思いよる〉と言う句は陽子さんに失恋したのではなく、愛娘の陽子さんが亡くなった悲痛な思いを詠んだのですが読んだ人にはこれだけでは伝わりません。房川素生さんの句に〈忌が明けて不意に淋しい晩の菜〉がありますが、ご葬儀のときにはせわしくて考えなかった故人のことが落ち着いてみると淋しさがどっと押し寄せてくると言う名句です。

 では、先輩から教わった川柳の作り方の虎の巻をご紹介しましょう。

1、            擬人法 動物や物を人間に例える方法です。

      殺される順を子豚が指を繰り

2、            こきおろし 見栄を張る人を裏側から観察する方法です。

      看板が派手なやりくり社長なり

3、            竜頭蛇尾 大きいことを言う人だが中身がないことです。

      背広着た紳士百円持ってない

4、            意外 思ってもいないことが起こる事です。

      水打ったところを通る散水車

5、            心懐 自分の感じたことを述べることです。

      夏焼けもせずに今年の夏も過ぎ

例えば初夏の幼稚園の傍を通ったとしましょう。オルガンの音が聞こえます。

      幼稚園園児と唄う雨蛙

と即興で作ればよいのです。 擬人法で作れば

      低音で春の小川を蝦蟇蛙

またこきおろしであれば

      蛇を見て逃げる蛙の燕尾服

竜頭蛇尾であれば

      雨蛙雨を降らすと言うただけ

意外であれば

      濡れるのが嫌いな蛙傘を挿し

心懐であれば

      旅帰り蛙の声が懐かしく

といくらでも作ることができます。

 次に初心者の陥りやすい欠点を説明します。

1、陳腐  過去にたくさんの川柳作品があります。発想に新鮮さがなければ

同じような作品になってしまいます。「スポーツ」という題で作品を募集したところ

      スポーツが取り持つ縁でゴールイン

     という句が2句あり

      スポーツが取り持ち目出度くゴールイン

という句もありました。第一想を棄てよという言葉もありますがはじめに考え付くのは誰でも同じようなもので類型的発想です。それで指導者はよく発想の転換をしなさいと言います。もう一つ固定概念と言うのがあります。

岡本太郎さんが言ったように富士山は美しいだからお手洗いの手ぬぐい掛けにも富士山の形を取り入れています。八の字文化です。また赤ちゃんの手は紅葉のようだとか言う表現が類型化を招くのです。

2、省略 川柳は17字しかありませんので無駄な言葉は極力排除しなけれなりません。例えば

      買い物のついでに昼の飯を食べ を

      買い物のついで都心で昼を食べ

とすることで「飯」を省略して代わりに「都心」と言う言葉で発想を広げられるのです。 

3、念押し 川柳教室の生徒さんの句に

      土いじりストレスも去りいい気持ち

がありましたが「いい気持ち」は土いじりをしてストレスが去ったのですから言う必要はありません。これを念押しと言います。

      ストレスを発散させる土いじり

だけでよいのです。

4、平板 同じように教室の生徒さんの句を例に挙げましょう

      夜道でも怖くはないと思う歳

      明日は雨でも私には仕事あり

句が読む人に何らかの感動を与えることが必要です。ああそうですかではいけません。

      夜道でも怖くはないと街路灯

      明日は雨でもサッポロへ飛ぶわたし

と添削しました。

5、スローガン 交通標語と川柳はどこが違うのでしょう。

      狭い日本そんなに急いでどこへ行く

      注意一秒怪我一生

など標語としてはよく出来ています。でも川柳と違うのは標語はある目的を周知することで作られます。だから標語には個人の感情が入る余地はありません。

川柳は自分の思いを伝えるのですからスローガンになってはいけません。 

      金持ちでも人に命は買えません

という句がありましたが

      何思う春の岬に立つおんな

と添削しました。

 5・7・5と言う狭い詩器の中で他人に感動を与える言葉を綴ることは容易ではありません。この文章は川柳を始めた人の為のものですから何年か続けた人たちはさらに飛躍して私たちに感動を与えてください。自分の句たちが過去の生き方を思い出すよすがとなればよいと思います。


 

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