やさしくて楽しい川柳添削講座(1) 谷口幹男
初心者の皆さんは川柳を作句することが楽しくて、寝ていても句が浮かび10句でも20句でも立続けに出来るという。こんな皆さんが私の教室に入られて句をとやかくいわれるのは内心面白くないのでないかとも思う。でもまあ、我慢をして聞いてもらっている。
いつも私が言っているのは川柳は二つに分けて一つは素材、もうひとつは技巧である。
作者がどんな素材でどんな発想をするかについては添削の仕様がない、添削できるのは
技巧つまり表現の方法である。
私のホームページにも書いているが初心者の陥りやすい欠点を列記すると
1 陳腐 既に多くの人が読んでいる句、例えば「スポーツ」という題で「スポーツが取り持つ縁でゴールイン」など。
2 省略 17字しか字がないのだから無駄な言葉は排除する。「買い物のついでに昼の飯を食べ」は「飯」を省略し「都心」という言葉で発想を広げる。
「買い物のついで都心で昼を食べ」
3 念押し 「土いじりストレス去っていい気持ち」の句、「いい気持ち」というのが念押し、
「ストレスを発散させる土いじり」でよい。
4 平板 思ったまま言っても川柳のなりません。わたしは「もの」とか「こと」を持ってきて詠むのだと言っている。
原句 夜道でも怖くはないと思う歳
添削 夜道でも怖くはないと街路灯
「街路灯」が「もの」だ。
5 教訓 「金持ちでも人の命は買えません」と言う教訓では川柳にならない。
「金持ちへ地獄の沙汰は金でなし」とでもするか。
次回からはこれらを個別的に見て行きたいと思っている。
以上は初心者への言葉だが、ではもう一人前の作家の皆さんに問いたい。
例えば遠く離れた子が帰省する時の父親の句
子の着く日心弾んで菊を切り
をどう思われるのだろうか。亡き房川素生さんは
子の着く日弾むでもなく菊を切り
と詠んだ。 この「弾むでもなく」という父親の心理の見事な表現に私は敬服の外はない。
本当の添削とはこういうものだろう。では添削に移ろう。
(原句)秘密ばれ慌てふためく子供達 脇坂美恵子
(添削)ママにばれ慌てふためく秘密基地
何の秘密だったのだろう。発想としては面白いのだがそこに「もの」を持ってくると一段と良くなる。「秘密基地」と言う「もの」で秘密の状況を鮮明にすると句が引き立つのである。
(原句)子の秘密覗かないからそれなりに 泉保明子
(添削)覗かない約束破る子の秘密
原句の下 5 の「それなりに」は曖昧である。はつきり「破る」としたほうが判りやすい。
原句のほうがいろいろにとりやすいと言う意見もあろうがそれでは句が弱いと私は思う。
(原句)座布団が善意で並ぶ無人駅 東原文子
(添削)座布団の善意が並ぶ無人駅
助詞の使い方は好みというところもあろうが添削のほうが滑らかである。どうすればうまく助詞を使えるかは経験に負うところが大きい。ではまた次回に。