この講座もいよいよ最終講となった。僕は僕の教室の皆さんに尋ねていることはなぜ川柳を作るのかということだ。川柳にはいろいろな入り口があって新聞で自分の名前が出るのが嬉しいとか、大会で自分の名前が呼ばれるとか上位に入選して賞品まで貰えるのが嬉しいという人も居る。
初めのうちはそれでよいのだがやがて物足らなくなり、そこでやめてしまう人も居る。また他人の句と比べてみて自分の句のほうが良いのに選者は何を思っているのだろうとかと非難もしたくなる。
選者もまた人、長年の柳歴だけで漫然と選をしてる人も皆無とは言わない。だから僕はいつも自選を言っているが、誰かに選をしてもらわないと自信がないという人も居る。
僕は自分の思いの表現手段として他の文芸でなく川柳という詩器を選んだのだから自分の川柳を貫いてゆくのが正道だと信じている。ただ初心のうちは前にも言ったとおり表現方法を先輩に教わることは必要だ。だが内容は自分の生きている証し、自分の存在証明でなければならない。他人の批評は素直に聞いても自分を曲げることはない。では添削に移ろう。
(原句)使い慣れた箒に馴染む濡れ落ち葉 鈴木貴美子
(添削)箒には掃かれるまいと濡れ落ち葉
原句をそのまま取るとその通りであるが「使い慣れた箒」が奥さんで「濡れ落ち葉」が旦那さんであれば男として添削句のように言いたくなる。定年を過ぎた男のせめてもの抵抗と受け取ってほしい。
(原句)指使いネット世界へ旅に出る 福田いくお
(添削)クリックを使いネットの旅に出る
定年を過ぎるとパソコンは男の玩具になる。「お酒片手にメールを打てば俺も同じと返事来る。コリャコリャ。」だ。
(原句)非難浴びそれでもレールはずさない 森澤和子
(添削)非難浴び軌道修正せぬ頑固
在職中、上司に歳をとると頑固でなければならないと言われた事がある。周囲からブーイングがあっても軌道修正をしない頑固さがその人の魅力でもあった。
しかし一歩間違えるとその頑固さが命取りになることもある。最後の判断で柔軟性が求められることは言うまでもない。
(原句)臍出す娘恥の文化は影ひそめ 植田淳子
(添削)恥ずかしくないのかお臍出しルック
アメリカ娘の臍だしルックは瞬く間に日本に上陸し歌手やモデルの間で大流行、街の娘にも伝染している。おじさん族としては内心歓迎の向きもあるが公式上はおばさん族に同調する。
(原句)祭りの夜花火彩る浴衣の娘 多田ちえ
(添削)お祭りに彩り添える浴衣の娘
原句の言いたい情景は判るがおしゃべりが多い。少し言葉を取って娘の浴衣の彩りに焦点を当てたほうがすっきりする。
では読者の皆さん、最後まで付き合って頂いて有難う。