やさしくて楽しい川柳添削講座 (2) 谷口幹男
以前句誌に書いたことだが
本当に悲しくなって席を立つ 松田千鶴
という句に対して
「俳句がそうであろうが川柳でも主観はできるだけ抑え、客観的な見方をしながらその表現の中に隠された主観(潜在主観)が出るように私は教えられてきた。椙元紋太師が「同人凡語」の中で近所の人が
いつ迄も陽子陽子と思いよる
という句を持ってきたとき何だ失恋男の句かと思ったが、よく聞いてみると陽子さんという娘が亡くなって作った句だったそうである。この時、この人に川柳をすすめられなかったと紋太師は言っている。川柳はそうした主観を客観的表現(ものとかことに託してという意味)にかえることが大切である。この句のように作者がその立場にいた時、
直接的に表現せずもっと違った云い方で読者に意図するものを伝えるのが川柳のメリットでありそのために修練を重ねるのが必要である.」
と私は書いている。補足するとこの陽子さんの句と同じ思いで房川素生さんは
忌が明けて不意に淋しい晩の菜
と詠んでいる。作者の思いを普遍的な云い方で表現しており読者に感動を与える佳句である。本当に作者の思いをできるだけ伝えようとして独断的、独り善がりになり普遍的になりすぎて平凡になるので作句は難しい。
では添削に移ろう。
(原句)口を見てうなずき別れる特急車 森澤和子
(添削)口を見てうなずく別れ特急車
(原句)子供たち集めたガラクタ秘密基地 多田ちえ
(添削)ガラクタを集めて子等の秘密基地
私は定型絶対論者ではないが基本的には 5 ・ 7 ・ 5 音は守って欲しいと思う。句は眼で見るだけでなく声を出して詠むことも大切である。初心者はともすれば考えついたことをそのまま句にするがもう一度声を出して詠むことをお勧めしたい。七五調は川柳だけでなく短文芸には基本的にあるものだ。だから詠んでどこかに引っかかりがあれば破調になっている。 5 ・ 7 ・ 5 にすることも頭の練習になる。
(原句)パックした顔を鏡は笑ってる 森澤和子
(添削)パックした顔を笑っている鏡
(原句)気の合わぬ人は善意も裏に取り 東原文子
(添削)気の合わぬ人には通じない善意
連用止めと言うのは川柳独特のものでよく使われる。悪くはないが句によってはやや冗長に聞こえることもある。添削句の様に最後を名詞で止めると句に安定感が出る。
(原句)ここだけの話のはずがみんな知り 植田淳子
(添削)ここだけの話弾んでいる酒場
原句は作者の思っていることがそのまま句に出ているので発展がない。
もっと客観性を持たせることで酒場という「もの」を持ってくることで句に味が出せるのである。
(原句)飛び起きるリーマン時代夢枕 福田いくお
(添削)在職の夢見て起きる定年後
定年後も勤めていた頃の夢を見て飛び起きるのである。サラリーマンの悲しい性である。
この句は 5 ・ 7 ・ 5 にしたいあまりサラリーマンを詰めてリーマンと言ったがこれでは読者には通じない。添削句の様に読者に判りやすい句に仕立てるように学ぶ必要がある。
ではまた次回に。