やさしくて楽しい川柳添削講座(3) 谷口幹男
最近の傾向として句に対する言葉使いがややラフになって来ているような気がする。
不器用ににコルクの栓を落とし込み
大笑いした夜淋しく独り寝る
という句を皆さんはどう思われるだろうか。 ご存知の通りこの句は
案の定コルクの栓を落とし込み 句沙彌
大笑いした夜やっぱりひとり寝る 紋太
という有名な句の替え句である。
「不器用に」と言わず「案の定」、「淋しく」と言わず「やっぱり」と言う言葉使いの旨さを初心者の方には知って欲しいと思うし、指導者の方はしっかり教えてあげて欲しいと思う。
また川柳は視点が曖昧と言う点に世間に誤解を招くことも注意を要する。 川柳教室の生徒さんの句に
ダイヤモンド似合わないなあ太い指
というのが有った。この太い指が本人とすれば謙遜であるが他人であれば侮辱である。
この曖昧さが川柳と言うことを理解し貰わねば仕方がない。
盛装の妻はダイヤの似合う指
と添削したが曖昧さは消せても原句の味を補うすべはない。では添削に移ろう。
(原句)小さな背に希望背負いこむランドセル 鈴木貴美子
(原句)ピカピカの希望をつめたランドセル 楠本容子
(原句)親の希望のせて重たいランドセル 藤村サダ子
(添削)背に希望背負って走るランドセル
「希望」と言う題で作られた句だが希望とランドセルという取りあわせはすぐ思いつくことで類句になりやすい。一般に「第一想を捨てよ」というがこれらは典型的である。
大会等の投句では没になりやすいので注意を要する。添削句は原句三句を纏めただけだ。
(原句)それなりに希望も秘めた無人駅 鈴木貴美子
(原句)大志抱き希望ふくらむ始発駅 松岡英子
(添削)旅立ちの希望も秘めた無人駅
希望を抱いて駅から旅立つというのも希望の一パターンでやはり類句が多くなるので注意を要する。逆に希望が砕けて駅に辿りつくというのもパターンの一つだが受ける率は少し多いか。
(原句)ちっぽけな希望ねがって日送りし 新居悦子
(添削)毎日を小さな希望持って生き
下 5 の「日送りし」というのは辛い。(添削)は原句に忠実に作ったが寧ろこれをテーマに作るほうがよいと思う。
(添削 2 )平凡な明日を願う夕茜
(原句)一人ふえまたふえ焚火の輪をひろげ 森澤和子
(添削 1 )一人増えまたふえひろげる焚火の輪
(添削 2 )一人また増えてひろげる焚火の輪
添削 1 は「焚火の輪」と名詞止めにしたほうがよいと思ったのだが生徒さんから中八でないかとの指摘がありそれならと添削 2 にした。しかし添削 1 の味は捨てがたい。
本当は中八でも良いと言いたいのだが 5 ・ 7 ・ 5 が基本と言った手前言いそびれた。
皆さんはどう思いますか。
(原句)遠回りしてわざわざ入る水溜まり 東原文子
(添削)一年生わざわざ入る水溜まり
わざわざ入ると言うのは遠回りすることだから「遠回り」と言う言葉は省略して良い。
一年生と言う言葉で作者は客観視出来るのである。 ではまた次回に。