やさしくて楽しい川柳添削講座(5) 谷口幹男
以前、菊池寛記念館の文芸講演で次のように喋った記憶がある。
よく「良い川柳、悪い川柳」というが私は悪い川柳はないと信じる。ただ、表現に努力が要るとか素材が陳腐だとか向上が必要な句はある。反対に表現に優れ、素材が新奇だったとしても作者の心がなければ単なる句遊びになる。素材が古く表現が拙いとしても作者がこの思いを句にしたいと思っているならばそれなりに詠む人の心を打つものがある。
私が例として挙げた句に
彷徨の父は亡き母探すらし
添い寝して母は私の子になった
がある。 作者の実感を詠んだものだが、第一句の「彷徨の」の父親のなんと男の性の哀しいことに,また第二句の「添い寝」も認知症になった母親を思う作者の気持ちに感動し、これらの句は長く私の記憶に残っている。
句が大会で第一席になったり、句誌の巻頭になることも悪くはないが作者が自分のその時の心を表現し残したい句にすることは,その句が例え句会で没になったとしてもそれは作者にとっては関係ないことだと私は思う。
では添削に移ろう。
(原句)持て囃す森の貝だとエスカルゴ 福田いくお
(添削)エスカルゴ森の貝だと持て囃し
「整姿」とか「句姿を整える」というのはつまりは読んで判り易い句にすることだ。
よく下5を上 5 に転倒することを添削でするが句の意味を変えはしない。
(原句)真珠貝慶弔の座で値踏みされ 多田ちえ
(添削)慶弔の座で値踏みする真珠玉
句に納まりが良いとという、これは大抵の場合下 5 に名詞を持ってくることだ。
作句した時、句を組みかえる試みをすれば収まりが判ってくると思う。
(原句)アコヤ貝女味方に核を抱く 上北マサ子
(添削)核抱いて海を信じるアコヤ貝
原句は句意が判りにくい。真珠の核を抱いてるアコヤ貝が育ててくれる海を信じているというふうにすればすっきりするのでないか。
(原句)事件多く毎日の記事困らない 松岡英子
(添削)毎日の記事を賑わす大事件
作者は感じたままを作句しているが、川柳としてどんなに表現するかを考えなければならない。添削句は作者の意図を忠実に置き換えたが本当はもっとこれから発展しなければいけない。 僕はよく原句を題としてどんな句を作るか楽しんだらよいと言っている。
(添削2)エジプトのテロ朝刊の大見出し
(原句)笊の貝隣りの海の潮を吹く 楠本容子
(添削)隣国の海の潮吹く笊の貝
原句でも構わないがこれもかたちを整えるとすれば添削句になる。表現を変えて詠むという練習を重ねることで句の上達がはかれる。
(原句)老人も新型事件巻きこまれ 植田淳子
(添削)新しい手口年寄り巻きこまれ
中 7 の「新型事件」が生硬である。「新しい手口」という言葉を選択したい。言い換えはどんなのがあるかと考えることを学んで欲しい。