やさしくて楽しい川柳添削講座(6) 谷口幹男
書架を整理しているとかって書いた一文が目にとまったので再掲する。
「俳句は沈み、川柳は流れる」といわれるが、これは俳句が俳諧の発句に始まるので一句の独立性を言い、川柳は同様に平句に始まるので次句へと思いが流れるということだ。
前句付では
降る雪の白きを見せぬ日本橋
(にぎやかなことにぎやかなこと)
と5・7・5に対する7・7にかかっていく。これを一句のなかに収めるとすれば
日本橋雪も積もらぬ賑やかさ
とでもして、一句の中に(にぎやかさ)を取り込まなければならない。
川柳で余情と言うのは後句の 7 ・ 7 の中で読者が感じることを前句の 5 ・ 7 ・ 5 で表現することで、前掲の句では(にぎやかなこと)が読者が鑑賞して座る場所だ。
例えば (天丼を分け合う夫婦だなと思う)
というのは一句の中に読者の座る椅子まで取り込んでしまって作者の思いを読者は一方的に聞かされている。これを(天丼を分けあっている老いふたり)とすれば読者はああ老夫婦だなと感じることが出来る。これが読者の座る椅子である。
最近は一句の中にすべてを言い尽くして思いを次につなぐことをしないが、余情のある川柳を心掛けていきたいと僕は思う。
では添削に移ろう。
(原句)迷宮入り事件多くて恐くなる 藤村サダ子
(添削)不安な日続く迷宮入り事件
「恐くなる」は読者が感じること、添削句のようにして恐いのを読者に感じてもらえばよい。
(原句)学校が人間不信生む事件 上北マサ子
(添削)校内の事件で父母に不安感
これも添削句のように具体的に言うほうがよい。原句は作者が感じたことをそのまま言っているので噛み砕く必要がある。
(原句)事件起きピリピリしてる管理職 森澤和子
(添削)予期しない事件慌てる管理職
駒大苫小牧高校の事件が連日新聞を賑わせているが校長先生も大変だろう。予期しないことでも管理職はトップとして何らかの責任が問われる。原句でも判るが添削句のほうが滑らかと思う。
(原句)貝の毒三日三晩のダイエット 楠本容子
(添削)ダイエットせずに痩せさす貝の毒
貝毒で三日あまり下痢続きでまるでダイエットしたように痩せたとはお気の毒である。 原句の上5、下5をひっくり返すのを倒置法というが作句の上で便利に使えるので試みるのもよい。
(原句)補聴器を忘れ別人貝になる 上北マサ子
(添削)補聴器を忘れ聞こえず貝になり
原句の「別人」が苦しい。 別人のようになるということだが 5 ・ 7 ・ 5 のなかに収まらないのでちじめた結果である。 添削句のように「聞こえず」とすれば解決する。
(原句)海鳴りが恋しいと呼ぶ貝が呼ぶ 松岡英子
(添削)海鳴りが恋しいと呼ぶ笊の貝
発想としてよく判るが下 5 の「貝が呼ぶ」がくどく聞こえる。添削句のように「呼ぶ」を除けるほうがよいのでないか。