やさしくて楽しい川柳添削講座(8) 谷口幹男
昔、こんなことを書いた覚えがある。
「先日旅先でのこと、ほぼ満員に近いバスに花を抱えたお婆さんが乗りこんできたがもうずっと後ろのほうしか席がない。やおらお婆さんは先頭の補助椅子を倒してどっかと座りこんだ。慌てた運転手はそこは駄目だとお婆さんに文句を言ったがお婆さんは知らん振り、何回か駄目と言っていた運転手もついに諦めてバスを発車させた。
お婆さんはよたよたしていたので先頭の補助椅子に座るのはいわば合理的だがルールとしては許されない。例え不合理に見えるその場でのルールでも守るべきだが、臨機応変に済ますのも日本的やり方である。川柳でも伝統的な作句法はあるがこれを無視した型破りの句も書かれてみれば成る程というのもある。添削するとあまりに常識的になるので添削者も困ることがある.」
確かに初心者の句は型破りなものがあるが野性的というか新鮮さを感じることもある、添削すると案外詰まらなくなるのも困ったものだ。学校が型にはめる教育をするというのはこう言う事かとふと考えた。では添削に移ろう。
(原句)1メールでも簡素化図る子の返事 押切圭子 山形
2背伸びする子と裏腹に若作り 同上
3ニコニコの顔文字一つに安堵する 同上
(添削)素っ気無い返事が返る子のメール
キャミソールもう似合わない子の育ち
顔文字の笑顔で安堵するメール
1は多分男の子だろう。母へのメールは邪魔くさいのと照れくさいのがごっちゃになって素っ気無くなる。原句の「簡素化図る」は硬すぎる。言葉選びをして欲しい。
2は作者の気持ちは良くわかるがいつも言うように(もの)を持ってきて表現することが大事だ。この場合(キャミソール)と云う小道具を添削句は使っている。
3は子からのメールの顔文字の笑顔に母は安心すると云うのだが、添削句のようにすると句が滑らかになる。
(原句)飲み仲間白髪頭で遠慮無い 大林美代子
(添削)みな昔仲間遠慮の無い酒宴
原句はストレートな云い方だが少し順序を入れ替えると句が上手に聞える。いろいろ言葉を置き換えてみるのもひとつの上達方法だ
(原句)方言が仲間づくりの音頭取る 上北マサ子
(添削)趣味仲間東京弁が音頭取る
サークルで東京からきた人が積極的で音頭を取りたがる事が多い。新人にも一番に声をかけるのが東京弁だ。
(原句)トップクラスの中で泳いでいる金魚 森澤和子
(原句)盛装でトップクラスに居る金魚
金魚はメダカのようには群れないで着飾ってひとり悠々と泳いでいる。原句はいい発想なのでついでに添削句も着飾ってもらった。美女は金魚に例えられるが煮ても焼いても食えないのも同じのようだ。
(原句)魚屋で海が恋いしと泣く魚 松岡英子
(添削)魚市場海が恋しい冷凍魚
原句の下 5「泣く魚」は少し言い過ぎの感がある。また風景としては「魚屋」より「魚市場」のほうが適切のような気がする。